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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十話 国家安全保障談合
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いします」
 再び予防線を張ると馬堂豊久砲兵中佐は軽く瞼を揉み、言葉を発する。
「まず第一に彼我の動員兵力が違いすぎる事は当然の認識としなければなりません。東方辺境領軍だけでも戦時編制に移行すれば160万超、部分動員だけでも我々の兵力を超える事になります。それだけではなく――」
わざとらしく云い難そうに言葉を切る。
「なんだ、早く云いたまえ」
 海良大佐が急かすと、馬堂中佐は頷いて言葉を継いだ。
「天狼会戦とその後の追撃による一方的な攻勢経過を見た〈帝国〉軍首脳部は〈皇国〉を美味しい狩場と受けとった可能性があります。ただでさえ、伸長著しい東方辺境領軍による勝ち戦の独占を軍中枢は喜ばないでしょうし権益の独占を防ごうとする本領の商会も動くでしょう。となるのなら〈帝国〉本領軍から何かしら手を打ち、無理にでも食い込んでくる可能性があります」
 自分達が草刈り場扱いされている、と云われた海良は顔を顰めるが反論することなく苦々しそうに頷く。
「――成程、その可能性は否定できないな」
 
「尤も、それもアスローン・南冥両国の動向次第であろうな。
凱帝国は宰相が内治優先を唱えており〈帝国〉との小競り合いを避けるつもりらしいが、アスローンは大王国が内乱を叩き潰してから二年だ。そろそろアスローンも再建が進み、火種の燻りが目立ち始めている――とはいってもそれに対応しても余力があるのが〈帝国〉の恐ろしいところだがな、もし本格的な戦争へと発展したらどちらに注力するかの判断が難しいところだろう。まぁ後で叩くか今叩くかの違いしかないが」
堂賀准将が顎を掻きながら補足を行い、馬堂中佐はそれに会釈して礼をし、再び口を開いた。
「つまるところ、〈帝国〉全体を敵に回すことになってしまいます。これはただ単に正面兵力の問題ではなく、仲介役としての〈帝国〉本領政府を用いることが極めて困難になる事が挙げられます。東方辺境領軍だけならば〈帝国〉本領政府の仲介で互いに手に負えない泥沼に入った後でも損切りに持ち込むことが不可能ではなかったのですが――」
 西原信置大佐は米酒で満たした杯を傾け、後を引き取る
「双方が手におえない戦況に至っても諌められるものが居なくなるという事か。あぁいや、そのような状況を引き起こす事すら困難であろうがな」

「龍州に防衛線を築くのなら今の内から相当な準備が必要でしょうな。
会戦状況に持ち込んだところで勝ち目はありません。工廠の増設、兵站連絡線の強化、陣地線の構築に導術運用体制を最低でも大隊、可能ならば中隊単位で構築しなくてはなりません」
そう云いながらちらり、と安東の利益代表者を見る
「面倒だな、導術の利用は前線の脳味噌筋肉どもが厭うのでね、まったく、情報は鮮度が肝心と云うのが解ってないのが多すぎる」
 そう云いながら薄く笑みを浮かべて
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