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くらいくらい電子の森に・・・
第八章
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ぐっていただけますか」
と、白い枠で縁取られたアーチみたいなものを指差した。
「えっ……」
「隔離病棟ですから。ご協力をお願いします」
なんでそんな空港みたいなことするんだ。左右を見ながらまごまごしていると、先ほどの看護士さんがちょいちょいと手を振った。
「あ、この人たちはちがうの。セキュアシステムの方」
「あぁ……」
彼は面倒そうに椅子に戻ってしまった。
看護士さんがゲートの向こうにある、ひときわ白い引き戸の電気錠にカードキーをかざすと、引き戸は音も立てずにスライドした。
「…今の、なんですか」
柚木が、不安げにたずねた。
「ごめんなさいね。ほら、こういう病院だからね。自傷癖のある患者さんなんかの手に渡ったりしたら大変でしょ。だから凶器になりそうなものは、持ち込めないの」
「…そうなんですか」
なんともいいがたい不安にかられ、柚木も僕も押し黙ってしまった。…なんで僕は、つい最近会ったばかりの男に連れられて隔離病棟をうろついてるんだ。ひょっとしてこれ全部夢なんじゃないのか。
看護士さんは、奥へ奥へと歩を進めていく。やがて、看護士さんの足が止まった。再び電気錠つきの引き戸にカードキーをかざすと、看護士さんは歩みを止めた。
「じゃ、私はここまで。帰るときは、ナースステーションに連絡してくださいね」
そう言い残して、看護士さんはあっさりと立ち去った。
「…いいの?」
「いいんだよ。ここは」
紺野さんは、何も気にした様子もなく、ずんずん進んでいく。やがて彼の歩みが止まった。その病室の名札には、患者の名前は入っていなかった。
「株式会社、セキュアシステム…開発分室?」
柚木が読み上げて振り返る。
「ここが、紺野さんの職場…!」
「そんなわけあるか」
「だって、山梨の山奥にあるって…」
「それはまた別の場所なの!」
紺野さんが、徐にカードキーを取り出して電気鍵にかざした。…全部で4枚のドアだ。ドアが開いた瞬間、昨日見た自転車の夢を思い出した。真っ白い壁の部屋。そこはどういうわけか、僕の中では『喪った何かとの対話』を連想させた。

「今日は、人が多いのね、紺野」

ハルよりも無機質で透明な声が、僕らの歩みを止めた。
…それは奇妙な個室だった。部屋の右側に積まれた四角いオブジェと、左側に積まれたプラスティックの破片。その真ん中に、彼女のベッドはあった。よく見るとその山は、ルービックキューブと、壊れたルービックキューブだ。そして中央のベッドで半身を起こしてこっちを見ている少女の両手で、高速回転している何か…僕の目は、彼女の顔立ちよりも、そっちに釘付けになった。回転が速すぎて、よく見えないけど…
「…ルービックキューブ?」
「ほんとだ…すごい、速くて見えない!」
柚木が、素直に感心して『彼女』に歩み寄り始めた。
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