第八章
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れた。柚木の肩によりかかってたことに気がつき、慌てて体を起こす。
「…いや、大丈夫だから」
「お前は大丈夫かもしれないけど、柚木ちゃんは汗臭いお前に密着されるのは、さぞかしいたたまれない事だろう」
「いやもう、ぐっすりですから…この娘にはもうお構いなく…」
「そこでどうだろう、柚木ちゃんを、この広々とした助手席に移すというのは」
「だったらこのトランクを助手席に引き取ってもらおう」
「…よくそんな酷いことが言えるな。この人、冷え切った助手席に誰かの体温が欲しいんだな、とか思えないのか。そんな俺に向かってよくもまぁ、トランク引き取れなどと…お前、友達少ないだろ」
「…失礼極まりないな。わかったよ。僕が助手席に」
「要らん!野郎の体温は高すぎて暑苦しい!」
「……おっと」
突然、車が弧を描くように大きくカーブした。気がつくと、既に車は山頂に向かう螺旋状の道をほぼ昇り終えていた。車は広く舗装された駐車場に滑り込んだ。
「着いた」
紺野さんはあっさりそう告げると、つまらなそうにシートベルトをはずした。柚木は停車の気配をうっすら感じたのか、薄く眼を開けて、肘をまげたまま伸びをした。
「あー…寝ちゃった」
反対側のドアを開けて軽やかに降りると、柚木はもう一回伸びをした。…僕たちが走ってきた車の轍が、夜のうちに降りた霜に残っている。太陽は昇りきっているのに、停めてある乗用車のボンネットに降りた霜は消え残っている。…寒い。ジャンパーの前をかき合わせて首筋を守るけど、染みこんでくる冷気は防ぎきれない。
「なーんかさ…こんな状況なのに、ドライブって目的地についちゃうとさ、あーあ、もう着いちゃったって、ちょっとさびしくなるよね」
「ドライブって、目的地に着いてからが本番じゃないの」
「んーん、ドライブは着くまで。ついてからは、また何か別の遊び。…で、帰り道もまたドライブ」
「で、また、あーあ、着いちゃったってなるの」
「うん。行きの2倍さびしくなるの」
そう言って柚木は笑った。寝起きだからかな、いつもの柚木じゃないみたいだ。
…そう思いかけて、さっきの荒々しい寝起きの光景を思い出す。
「…で、この病院はなに」
気楽なドライブの目的地は、また別の何か…。僕にしても、知ってるのは『ここが病院』ということだけなので、なんとも応えようがない。
紺野さんはトランクを抱えて、僕らを先導するように歩き始めた。
「覚悟しておけよ…ここから先は、ちょっと『普通』じゃない」
初めて、建物の方向に目をやる。年月に蝕まれた建造物に特有の、雨晒しの跡が壁一面に現れた薄暗い建物。存在感が灰色にくすむ、静かな病院だ。…こういう病院は、都内にも結構ある。終末病院なんて言われているっけ。回復の見込みがなく、家族からもほぼ見捨てられた人たちが死を待つ、そん
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