女の敵 (前)
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
信頼のおける情報部の人間を紹介してもらうということだった。
フロルがその男に会ったのは、作戦本部ビル近くの喫茶店だった。情報部の人間と会う、というのはそれ自体が危険な意味を持つのである。例え今回のような小事で関わるのであっても、最低限の気を使う程度の常識を、フロルは有していた。
「フロル・リシャールだ」
隣りの席に座った男に顔を会わせぬまま、名乗った。
「……あんたが予言者フロルか。グリーンヒル中将が言ってたぜ」
「俺が名乗ったのだから、おまえも名乗って欲しいものだが」
「バグダッシュ大尉だ」
「ほぅ……、今日はどうやら厄日らしいな」
「なんだその言い方は」
「いや、こっちの話だ。それで、これがお願いしたい事件だ」
フロルはその資料をバグダッシュに渡した。バグダッシュはそれに軽く目を通す。
「ふん、軍需投機家と軍人の汚職事件か……。サローニ中佐か。こいつは帝国に亡命だと? 下らん事件だな」
「その事件、概ねにおいてはその通りだが、一人だけ哀れな女がいてな」
「む? この軍人の愛人か」
バグダッシュはその名を見つけたようだった。添付されている写真を見て、音の出ない口笛を吹いた。
「美人だな。こいつがどうした?」
「その事件は未だに憲兵隊によって審理中だ。そして、だ」
フロルはそこでバグダッシュに顔を向けた。
「今日中に彼女が被害者であるという証拠を見つけ出して欲しい」
「今日中だと?」
バグダッシュは目を見開いた。
「……グリーンヒル中将に呼び出された時に嫌な予感はしてたんだがな。人使いの荒い男だ、おまえさんは」
「一応補足しておくとだな、彼女はその男に結婚を餌にその企みに引きずり込まれた哀れな女性だ。正直言ってそんな男は俺自身がぶん殴ってやりたいくらいだが、それだけでは彼女が救われん。どうにかして助けて欲しい」
「ふん、まぁいいだろう。だが証拠が見つからなかったらどうする」
フロルは意地の悪い、彼特有の笑いを頬に浮かべた。
「ないものをあることにするのは、情報部にとっては朝飯前だろ?」
「捏造か……。なかなかえげつない男だな、おまえ」
「俺は個人的な主義でな、美しい女性には最大限親切にすると決めてるんだ」
フロルは手元の冷め切ったコーヒーに手を伸ばした。
「筋書きは任せる。不自然にならない方法で、彼女に情状酌量が行くようにしてやってくれ。できれば無罪が望ましいが……」
「まぁそこは任せろ。グリーンヒル中将が俺を信用する理由を、おまえに見せてやる」
そう言って小声で話していた二人の男は、喫茶店から姿を消した。
************************
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ