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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
休息の日
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ーンヒルである。彼女はエル・ファシルでヤンに惚れてから、ずっと片想いを続ける忍耐の人だが、ちょっと手助けしてやろうと思ったのだった。ヤンは当時のことなんてまったく忘れているだろうし、グリーンヒル大将も知らない事実だろう。原作の知識があるフロルだからこそ、この時点で知っているのだ。恐らく、グリーンヒル父娘両者に招待状を送れば、娘が父を説得してでも誘いの乗るだろう。
 そして事実、昨日、グリーンヒルから参加の申し出があった。わざわざあの親子に二枚の招待状を送って正解であった、と自らの謀略を誇るフロルであった。

 




 そんなフロルは今、明日の料理を考えながら、とりあえずは今晩の夕食を作るために食料をハイネセンの軍官舎地域の近くの街に買い出しに来ていた。人がいるところには店もできる。フロルが住んでいる軍官舎は比較的新しく増設されたはずだったが、その近くには既にスーパーや服飾店が増えつつあった。

『この痴れ者がッ!』

 そんな時代錯誤で奇妙な帝国公用語の叫び声が上がったのは、フロルがまさに、スーパーから買い物をして出てきた時である。
 フロルは慌てて周りを見渡した。すると、通りの向こうの少女がお尻をつけて転んでいて、こちらに向かって走っている男を指差している。その男は彼女とフロルの間の通りを、フロルから見て右に曲がり、凄い勢いで走っていった。
 フロルは買い込んだ食料を手放し、一気に走った。あれは明らかに引ったくりの類だろう。フロルは特段、正義漢ではなかったが、か弱い少女を突き飛ばす男を許す気はなかった。一瞬であったが、あの少女はカリンより同世代であることを見て取っていた。もしもカリンが引ったくりにあって怪我をしたら、フロルはその男を殺す自信があった。親バカである。
 2分後、フロルは男を地面に押さえつけていた。

 駆けつけた警官に事情を話し、軍の身分証明書を見せたのち、引ったくりは警察に引っ張られていた。男はやはり引ったくりだったのだ。警官によると、後日調書を作るために出頭を願うかもしれない、と言われたが、フロルに異議はない。それよりも彼は、今更置いてきた荷物が心配になっていた。あれは今夜、カリンが食べるはずだった食料なのだ。それに、引ったくられた少女も見当たらない。随分と走ったせいだ。
 彼女の奪われたバックは、無事引ったくりから回収した。そこでフロルは警官の一人に同行を願った。フロルが引ったくりを見つけたところに、少女がいるかもしれない、と伝えたのだ。警官は少女のバックを返すことに同意し、フロルに着いて来た。フロルはもしかしたらあのスーパー近くに、まだ少女がいるかもしれないと淡い期待を抱いていたのだが……。
 果たして少女はスーパーの前にいた。



 女の子が、フロルが投げ捨てていった荷物を見張って
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