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ケイローン
第三章

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 ケイローンは難しい顔でこうアポロンに話したのだった。
「病ですな、それは」
「それはわかるのだが」
「私が申し上げた通りになりましたか」
「ではやはり」
「はい、内臓です」 
 それが原因だというのだ。
「ゼウス様は足の親指の付け根を締め上げられる様に痛いと仰っていますね」
「その通りだ、歩くこともままならず風が当たっても痛くて仕方がないと仰っている」
「それは痛風です」
 これが病の名前だというのだ。
「間違いありません」
「その病に内臓を食べ過ぎたからか」
「なってしまったのです」
「そうだったのか」
「内臓は確かに滋養にいいです」
 このことは間違いなかった、実際にアポロンも体調がいいままだ。
「ですがそれでも」
「過ぎればか」
「はい、よくないのです」
「ゼウス様の様になるか」
「お酒にしても果実にしてもそうですね」
 こうしたものについても話巣ケイローンだった。
「美味しく酒は心も楽しくし」
「果実もまた身体にいいな」
「はい」
 彼等は学問としては知らないが経験として知っているのだ、果実もまた動物の内臓とは違うもので身体にいいとだ。
 だがこうしたものも過ぎれば。
「お酒は身体を壊します」
「果実も過ぎれば身体がおかしくなる」
「甘いものを食べ過ぎると目がかすみ壊疽にもなります」
「そうだな。そしてか」
「肉の内臓もなのです」
 これの話に戻った。
「過ぎると」
「そうなのだな。それでなのだが」 
 アポロンは事情がわかってからケイローンにあらためて問うた。
「ゼウス様だが」
「はい、治らない病はありませぬ」
 ケイローンの持論であり彼自身それだけの腕がある。
「それではです」
「薬のことを話してくれるか」
「薬草を出しましょう、そこから薬を作ります」
 ケイローンはゼウスの足の病について即座に述べていく。
「そしてです」
「他にもあるのか」
「暫くは内臓を食することを止めて下さい」
 言うのは食べることについてもだった。
「そして治ってからもです」
「食べ過ぎないことだな」
「食べ過ぎることは餓えと同じだけよくはありません」
 そこにあるものは全くの逆だが禍であることは同じだというのだ。
「ですから」
「わかった、それではな」
「はい、左様にお願いします」
 ケイローンは早速何種類かの薬草を取り出しそれ等を磨り潰し混ぜ合わせてから薬を作る。アポロンはそれを見ながら考える顔で何でも過ぎれば禍になるということを心の中で噛み締めていた、医学の神にとって非常に大きなものを得たことだった。


ケイローン   完


                   2013・1・31
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