第三章
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「とにかく槍のことは考えておく」
「はい、それでは」
「その様に」
こうして道三は主の前でまずはこう願い出た。畏まった上で。
「殿、お願いがあります」
「何じゃ?」
「深芳野殿を頂きたいのですが」
今も彼の横にいる彼女を見ての言葉だ。
「そうして頂きたいのですか」
「いや、それはな」
「そこを何とか」
最初は断られるとわかっていたので前に出た。
「お願いします」
「そう言うがな」
「無論ただでとは言いません」
道三は平伏しながら主に言う。
「手柄も立てます」
「手柄をか」
「はい、立てます」
こう言うのである。
「そしてさらに」
「さらにか」
「芸もお見せしましょう」
「芸をか」
「はい、芸をです」
それを見せるというのだ。頼芸が芸が好きだということを知っての言葉だ。
「それを見せましょう」
「ほう、芸をか」
「殿のお好きな芸を」
「言うのう。それではじゃ」
頼芸が何を言ってくるかはもう読んでいた。この辺りの読みの鋭さも道三をここまでのし上げた。そして今もその読みを使ったのだ。
頼芸は読まれていることに気付いていない。それでこう言ったのである。
「槍じゃ。御主は槍も得意じゃな」
「はい」
それを知っての言葉だった。
「自信があります」
「あるか。ではな」
頼芸は道三に読まれていると思いながらさらに話していく。
「その槍で。思いきり長い槍でな」
「それでか」
「はい、使ってじゃ」
そしてだというのだ。
「虎が描いてある襖があるな」
「あの襖ですか」
「その虎の目に槍の先を突かせてじゃ」
頼芸は自分が思いついていると考えていることを言っていく。彼は何もかもが自分で言っていると思っていたが違っていた。彼は全て読まれていたのだ。
しかしそれに気付かずだ。こう言ったのである。
「その襖に穴を空けなければじゃ」
「深芳野殿を頂けるのですな」
「そこまで出来れば問題はない」
こう言ったのである。
「深芳野をやろう」
「それでは」
こうしてだった。道三は長槍で襖の虎の目を突くことになった。そのうえで襖には穴を空けぬという誰が見ても不可能なことを言われた。これには誰もだった。
「出来ぬな」
「うむ、全くな」
「出来るものではない」
「槍の先で虎の目を抜くことはな」
「しかもそこに穴を空けてはならぬ」
「出来る筈がない」
「そんなことは誰にもじゃ」
話を聞いた土岐家の家臣達もこう言う。今度ばかりは道三もできないだろうと言う。しかしそれでもだった。
道三は表では深刻な顔だった。だが実際はというと。
己の屋敷で己の家臣達に顔を向けてこう言ったのだった。
「これでよい」
「深芳野殿は殿のものですか」
「そうなりますか
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