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『彼』とおまえとおれと

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め寄ったらどうなるだろう。好きという気持ちは綺麗なだけのものじゃないことを犀は知っている。そのどろどろしたものを今ここで日紅にぶつけたらどうなるだろう。日紅の泣き顔ですら自分のものにしたいと言ったら、日紅はどうするだろう。



 その一方で、今犀の態度がおかしくなったら日紅が困惑するだろうとも考えていた。だけどもう犀は笑えなかった。



「犀」



 犀がおかしいことに気付いた日紅の手がそっと犀の手を握った。犀は日紅の考えが読めなくて目線をあげた。目の前に、視線を伏せた日紅がいた。困ってるような顔。それを見た途端、犀は思った。もう、だめかもしれない。日紅は犀に何かを言おうとしている。その瞳を伏せたままで。



「犀、ごめんね」



 犀は目の前が暗くなった。恋についてまだ何もわかっていない日紅に答えを出せというのは無理かもしれないと、犀は半分断られるかもしれないと覚悟していた。だが、予想はしていてもやっぱり堪えた。



 しかし、日紅はさらに言葉をつづけた。



「ほんとに、ごめん!なんか、昨日から考えてて、あたしのなかではもう決まってて、だからなんか犀もわかってるって気でいつもどおりにしてたけど良く考えたらあたしなんにも言ってなかったよね!?だから、えっと…」



 日紅はそこで顔をあげた。ちらりと犀を見てまた視線を落とす。その頬は真っ赤に染まっていた。



「こ、れからよろしくお願いします」
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