壱ノ巻
青の炎
3
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して変わらない」
「いいえ。違うわ。俊敏の速。瑞穂の穂、寵児の児。人々に温もりと安寧を与える、速穂児」
どう?と瑠螺蔚は笑った。陽のようだった。
眩しい、と思った。目が眩んでしまいそうだ。
俺が穂だというのなら、瑠螺蔚は光だ。俺にとっての、風であり、水であり、土である、陽女神。
「あたしのところへ来なさい、速穂児。きっと、生活には困らないわ」
そうか…それもいいな。
新しい名、新しい生活。また、一から始めるのも悪くないかもしれない。
おまえが側にいるのなら。
「ね?」
瑠螺蔚が、笑った。
それに応えるように、俺も笑った。
「三七郎、若は?探しているんだが、何処にもおられないんだ」
久々に伸ばす手足はぺきぺきと音を立て、動かす度に痛んだが、俺はいやに清々しい気持ちでいた。
「あ、速穂殿、ご病気が治られたんですね、よかった」
「ありがとう」
俺が礼を言ったら、三七郎は目をまんまるに見開く。
「…」
「三七郎?」
「あ、いえ、…あの、速穂殿、なにか、ご様子が変わりましたね…?」
「そうか?」
俺がそう言って笑うと、それを見た三七郎は目をぐりぐりと擦って、ぱちくりとさせた。
その顔があまりにも間抜けだったものだから、俺は思わず噴出す。
そんな俺は余程前とは別人に映ったらしい。
「あの〜…本当に速穂殿ですか?」
「そうだが、三七郎、若はどこへ行ったんだ?」
「あ、若君ですか?若君は…」
そう言って、三七郎はえ、と声を上げた。
怪訝そうなその顔は、俺の心に一滴の不安を落とす。
「どうした?」
「速穂殿、知らないんですか?若君は馬で先程出かけられましたよ。『行き先は速穂に言った』といっておられたので、僕はてっきり・・」
「!」
血の気が一瞬で引いた。若は前田家に行ったのだ!
でも速穂殿が知らないとなると、若君は恋人のところへでも行ったのかなぁと見当違いのことを言っている三七郎の背後の空を俺は仰ぎ見た。
煙も炎もみえない。
けれど、俺はそこに燃えあがる炎と黒煙の幻を見た。
瑠螺蔚…!
俺は踵を返すと厩へと駆けた。
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