五月 栄光と黄金(下)
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一つだけ残っている。
例の正貨が総額二万二千金の内、奪還できたのは一万八千金のみだった件についてだ」
堂賀の淡々とした言葉に松良が不快そうに眉を顰めた。
「――我々が着服したとでもおっしゃるつもりですか?」
唇を歪め、堂賀は首を横に振る。
「いいえ、勿論そのようなことを云うつもりはありません――しかし、軍内にいる何者かが調書を捏造しました。元々運ばれていたのは一万八千金だけだった」
「――なんですって?」
松良は目を見張って立ち上がる傍らで井田中尉は目を見張って体を強張らせている。
「本来ならば、宮城の支店の貯蓄から残りを一旦捻出する予定だったのでしょう。それ自体は別段珍しいことではありません。数日遅れで本店の手形は問題なく正貨になり、帳簿に記される前に問題は解決される――だが、予定外の匪賊の襲撃で彼らは余計な知恵を回してしまった、未だに手形のままであった四千金を損金として隠蔽してしまおうと。そして軍内の何者かは死体を隠蔽し、行方不明の賊を作り出した。おそらくは何がしかの利益をさしだされた何者かが――」
そう云う監察官の傍らで豊久はぱさり、と書類を議卓の上に滑らせる。その表紙にはこうかかれている。
皇都視警院 刑事部捜査二課 鈴鳴屋脱税案件関係調査資料
「―――――何たる事だ」
絶句する松良大尉の隣で井田中尉はわなわなと震えている。
「無論、これはあくまで仮説でしかないが。私が見たところ視警院は皇州警務局の者達と共に随分と確信をもって動いているようだ。兵部省としては彼らの調査に手を貸す事を厭うべきではないと考えている――中尉、貴方が知りうる限りの事を話してください。貴方の為にも、陸軍の為にも」
「私の――為にも」
声を掠れさせた対象者に主査は短く、現状を告げる。
「監察課としては貴方が詠う内容如何ではこの度の随時監察における判断を陸軍局長閣下、官房長閣下と相談を要するべきだと考えています。そして既に皇都視警院とはこの案件に対する事前の協力を行えば、貴官に対して不利益を齎す?がりを一切追求しないと取り決めを交わしています」
「その後に人務部と大臣官房へ報告を上げることになります。
――良いですか。現在、我々の監察によって証明しうる限りでは、貴方がとった対応は全て賞賛に値すべきものです。ただ一つだけ貴方は守るべきものにより騙された。
――いかがですか?」
「井田――」
自身の上官が驚愕の視線を送るが、衆民中尉はそれに目を伏せる。
「――馬車の」
そして掠れた声でつぶやくと監察官は片手をあげ、二人を黙らせた。
「両替商が貴重品を運ぶためのものだけはあって――馬車は非常に頑丈にできていました――だから、奴らがこじ開けようとしていた扉を――周囲を確保した後で抉じ開
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