五月 栄光と黄金(下)
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うのですが」
「あぁ、結論は明日の内に課長と局長閣下に相談してからだ」
監察課長は人務一課長と同じく人務部次長を兼任している。現在の部長は年若い背州公子であり、実務に関しては二人の次長が取り仕切っている。
つまり、人務に関する事実上の責任者達と話し合うということである。
「瑕疵があったのですか?」
「それが極めて面倒な状況だ、これを見てくれ。」
そう云って自身の書類鞄から資料束を取り出した。
「借り出すのに随分と手間がかかったが――これで決まりだ」
そう云って差し出されたものの表題を見て二人は唸り声をあげた。
「――どうやってこんなものを持ってきたんですか?」
「本当によく持ち出せましたな――だが確かに、これは先に手を打たないと不味いことになっていましたな。下手をすれば我々が笑いものになるところだった」
驚嘆交じりの二人の賞賛に対し、堂賀は鬼気迫る笑みで答えた。
「何を言っているんだ、二人とも。これからの事後処理が本番だぞ?」
五月七日 午後第一刻 皇州都護鎮台司令部庁舎内小会議室
兵部省陸軍局人務部監察課 首席監察官 堂賀静成大佐
一日の修羅場を潜り抜け、監察課の二人は結論を告げるべく再び鎮台司令部を訪れた。
「副官――おい、副官」
「――はい、なんですか?首席監察官殿」
ぼんやりと思考の海に沈んでいた副官を堂賀は苦笑して呼び戻した。
「どうした?疲れたか?」
「疲れてはいませんが――上手くいくでしょうか?」
「上手く行く筈だ。完全に三方良しというわけではないが、これが次善の策だ。
貴様も覚えておけ、何を護るべきかを考えて危険な際に切るべきものを切る、と云うのが我々の職務だ。それもどう切るか、切ったものはそのまま捨てるのではなくどう使うのか、或いはどこに置かれ、それがどうなってゆくのかを知っておかなくてはならん。
良いか、それを覚えておけ」
堂賀の口調がまさしく教官のそれになっている事に気づいたのか、豊久はわざとらしく背筋を伸ばし、少尉候補生のような口調で答えた。
「はい、首席監察官殿」
「さて――はじめるか。本田君、松良大尉と、井田中尉を連れてきてくれ」
自ら志願し、協力者として監察官の手足を務めている衛兵司令は自ら二人の将校を連れてきた。
「二人とも出頭御苦労」
中尉に対し、首席監察官は、慇懃ではあるが温かみのない声で座るように告げた。
「――さて、それでは先ず最初に受勲審査の結果をお伝えしようと思う」
「はい首席監察官殿」
部下である井田に視線を送り、挑むように松良が言葉を発する。
「この度の事案にはあらゆる意味で過誤は見受けられません。監察課としましても自信を持って井田中尉への受勲を推薦することができる――のだが、最後に疑問点が
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