『彼』とおまえとおれと
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人だとは思うが陰になって姿は見えない。犀は知らず息を呑んだ。怖い。
足が逃げを打つ。だめだ。日紅がいる。あんなに近くに。危ない、日紅を残してはいけない!犀の中で恐怖よりも日紅を想う心が勝った。
震える足を叱咤してずかずかと日紅に近づくと驚く日紅の腕を掴んで自分の後ろに回した。もしかしたらそれは、全く意味のないことなのかもしれない。目の前に対峙するものは、全く得体が知れなくただ本能が怖い逃げろと告げてくるようなもの。犀がひとり日紅の盾になったぐらいではどうにもならない存在なのかもしれない。でもー…。犀は瞳を閉じて歯を食いしばった。どうか、神様。俺はいいから日紅を助けてくれ。お願いだ俺はどうなってもいいから!
「せーくん?どうしたの?」
場違いなのんびりした声が響く。日紅はこのとてつもないものに気づいていないのだろうか?だったら尚更犀が守ってやらなければ。
犀は覚悟を決めて相手をねめつけた。そして、驚きに声を失う。
風が吹いた。ざわざわと大木が枝を騒がせる。雲が晴れ、月光が一部の隙もないその男の顔を照らした。
犀より幾分か高い背、陶器のような肌、漆黒の髪、つりあがった眦。その瞳も漆黒だ。燃えるような苛烈な視線で犀を射抜いている。
月夜見命。犀は確信した。こいつは夜の神だ。
きっと、日紅を連れに来たんだ。
「巫哉!」
日紅が嬉しそうに言った。なんと、男に向かっていこうとするではないか!
「日紅!だめだ!」
犀は自分を通り過ぎようとした日紅を後ろから抱きしめた。必死だった。日紅が連れて行かれてしまう。犀の頭にあるのはそれだけだった。
「いっちゃだめだ!」
「日紅」
『彼』がはじめて口を開いた。犀はぞわっと鳥肌が立った。と思ったら腕の中から日紅が消えていた。目の前に『彼』がいた。一瞬のうちにこんなに近くまで来れるなんてやっぱりこいつは月夜見命だ!
「やめろ、日紅を離せえ!」
犀が必死でその足に蹴りを入れたり殴ったりしていたら上からため息が聞こえた。と同時に腕を掴まれてほおリ投げられた。あ、と思った時には地面に落ちていた。強かに手の平と腹をぶつけて涙が滲んだ。
「せーくん!巫哉!やめてなんでこんなことするの!せーくん!」
『彼』に抱えあげられた日紅はその腕から逃れようともがいた。犀に手を伸ばす日紅に『彼』はしれっと言った。
「先に手ェだしてきたのはあのクソ餓鬼だ」
「だからって巫哉のほうが背も高いし力も強いし年
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