A's編
第二十八話
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」
「あれは―――」
そこで、初めてはやてちゃんは、沈んだような表情を見せた。
しまった、と思ったが、後の祭りだ。踏み込むつもりはなかった。だが、両親がいないと聞いてしまった以上、気になってしまい、思わず口にしてしまったのだ。
「もうすぐ帰ってくる私の家族の分や」
だが、はやてちゃんは、その沈んだ気分を追い払うようにはやてちゃんは、顔をあげて微笑みながらいう。むろん、その微笑みが無理やり作ったものであることは言うまでもない。しかし、それを指摘してしまえば、せっかく立て直した彼女の感情が壊れてしまうと思った僕は何も言わなかった。いや、言えなかった。
「そう、なんだ」
僕ができたことはせいぜい、彼女の言葉を肯定することのみだ。詳しい事情を聞けなかった僕にできることは、そのぐらいだった。
またしても僕とはやてちゃんの間を沈黙が支配する。しかしながら、空気は先ほどとは真逆だ。嫌な感じの空気が流れていた。僕が変なことを口にしてしまったばっかりに。空気を変えたいとは思うが、僕とはやてちゃんの間には共通の話題が少ない。共通の話題ですぐに思いつくのは、本の話題だが、この空気の中で口に出せる雰囲気ではなかった。
さて、どうしたものだろうか? とまだあったかいコーヒーを口にしながら考えていたのだが、答えを先に出したのは、はやてちゃんだった。
「そや、ショウくん。お風呂入らんか?」
不意にはやてちゃんが提案してきたのは、お風呂に入るということだった。
なるほど、確かにお風呂に入った後であれば、空気が変わるかもしれない。それに同じ部屋にいることなく空気をリセットできるだろう。
「そうだね。それじゃ、どっちから先に入る?」
目的としては、空気を入れ替えることだから、どちらからでも構わない。僕からでもはやてちゃんからでも。要するに一人の時間ができればいいのだから。しかしながら、はやてちゃんは、なぜか僕の言葉にきょとんとした表情をした。
「ん? なにいっとるの? ショウくんも一緒に入るんやで?」
「え?」
僕が呆けた声を出しても仕方ないだろう。なぜなら、彼女はそれが至極当然というような口調で、一緒にお風呂に入ると言い出したのだから。一瞬、僕の聞き間違いかと思った―――いや、それを期待したのだが、僕が呆けたような声を出したのを怪訝そうな顔で見ている彼女を見る限り、僕の予想は希望的観測でしかないようだ。
「えっと……その、できれば別々がいいんだけど……」
確かに僕がはやてちゃんの身体を見てどうこう感じるわけではない。夏休みのときになのはちゃんやアリシアちゃんたちと散々一緒に入ったのだから、今更どうこう言うつもりもない。しかしながら、いきなり一緒にお風呂という
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