暁 〜小説投稿サイト〜
リリカルってなんですか?
A's編
第二十八話 
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はいれるんか?」

「一つだけ入れようかな?」

 そか、と言いながらはやてちゃんが角砂糖を一つだけ入れてくれる。前世のときではブラックでも平気だったのだが、お子様の舌には、ブラックはきついものがある。生理的に受け付けないのだ。

 一方のはやてちゃんは、自分で二つの砂糖を入れていた。そのあとで持ってきたスプーンでコーヒーを混ぜる。そんなはやてちゃんを見ながら、僕は、コーヒーを一口ふくむ。出来立てなのだろう。少し熱かったが、飲めないほどではない。味は、おそらくインスタントであることを考えれば上等だと思う。生憎ながら、家で飲むコーヒーもインスタントであるため、味の違いはあまり感じられなかったが。

 しばらく静かな時間がはやてちゃんの家のリビングを支配していた。しかし、嫌な空気は感じられない。ゆったりとした時間が流れていた。

 ふと、リビングにある時計を見てみる。僕が晩御飯をごちそうになってから相当時間が経っていた。僕の家からここに来るまでの一時間半を加えたとしても、だ。小学生の時間感覚としては遅い部類に入るだろう。しかしながら、はやてちゃんの家にはだれも返ってくる気配はない。リビングから見えるキッチンのそばのテーブルの上には虚しく持ち主の帰宅を待つ食器類がさかさまになっていた。

 いったい、はやてちゃんのご両親はいつ帰ってくるのだろうか。僕が、この家に泊まろうと思ったのは、足が不自由な彼女を家族が誰もいない家に一人で残すのが心配だったからだ。もちろん、はやてちゃんの様子を見るに車椅子の生活は短いわけではないだろうから問題があるとは思えないが、それはそれである。たとえば、不慮の事故でこけてしまえば、彼女には助けを求めるすべがないのだ。心配になるのも致し方ない。

 しかしながら、はやてちゃんの状況がわかっておきながら、こんな時間まで一人で放っておくとは考えにくい。今日が特別遅くなるのだろうか?

 この家の造りやはやてちゃんが料理を手慣れていることに違和感を覚え、家庭環境について問いただしたいところもあるが、それは無理にしても、ご両親がいつ帰ってくるか、ぐらいは聞いても問題はないだろう。

「はやてちゃん、お父さんとお母さんはいつ帰ってくるの?」

「ん? 父さんと母さんは、おらんで」

 は? と僕は一瞬、自分の耳を疑った。はやてちゃんの言葉をそのまま解釈すれば、彼女の両親はいないということになる。しかも、それを沈痛な面持ちで言うならまだ理解できるが、彼女は平然と微笑みのまま口にした。まるで、単純に事実を言うように。それから理解できることは、彼女の両親がいなくなったのは、最近ではないということである。もはや感情の面で折り合いがついていると考えるべきだろう。

「でも、それじゃ、あのテーブルの上の食器は……?
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