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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
五月 栄光と黄金(中)
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問題は失われた正貨の行方に絞られています――資料によると井田中尉の小隊が死者を出さずに済んだ最大の要因は輸送に使われた馬車が頑丈に作られており、遮蔽物として極めて有効だったことです。これは詰まれていた正貨も同様です。失われた四千金を含めて、千金ごとに樫と鉄でできた箱に施錠されており、壊すには随分と手間がかかります。重量だけでも相当な物です。
そうとう嵩張るでしょうし、重量だけでも一箱で二十(kg)はある。
馬でも居ない限り、いえ、居たとしてもそう簡単に中隊主力が来る前に逃げられるものでしょうか?」

「ほう?だがそうだとしたら中隊が窃盗したと?」
愉しそうに尋ねる堂賀に対して豊久は瞼をもみながら答える。
「それもいまのところ、説明できない点が多すぎます。いつ?何人で?
まさか中隊主力総員でこれを隠蔽した?まさか!そんなことをしたら必ずどこかで漏れるに決まっている!百二十余名が小金を抱えて秘密を守れるわけがない!ならば小隊、或いは分隊単位で?確かに可能かもしれないが危険が大きすぎるでしょう
余程強い動機――理由がなければ銃殺物の危険を冒せないでしょう。当事者の人務記録を見る限りそこまで追い詰められたものも、博打狂いも居なかった」

「成程、だが少々弱いな。そちらは断言するにはも再度の身辺調査が必要だろう。
金回りが良くなってないかでかい借金を作っていないか等々、面倒だな。あまり時間をかけるのは好ましくない」
そういって堂賀はにたり、と嗤った
「何かお考えが?」

「――さてな。私の考えが正しければ、明日には糸口がつかめるだろう。
そうなったら貴様にもわかるだろうさ。今日はもう店じまいだ」
自身の鞄を持って、首席監察官は立ち上がる。



五月三日 午前第九刻 皇州 宮城内 両替商 鈴鳴屋宮城支店
兵部省人務部監察課主査 兼 首席監察官附き副官 馬堂豊久


「――こちらを調査するにしても我々は何の権限も持ってないと思いますが・・・
それに、彼らは戦闘には関与しておらず、紛失する前と後の確認だけです。」
「ただの善意の協力を願うだけだ。強制権はたしかにないが二、三人に話を聞くだけだ、昨日の内に連絡も送っておいた。そう邪険にもされんよ」

「いつの間に?」

「司令部を出る前にだ。あの愛しの千金箱に関する資料を読んだ時点でここに行くべきだとおもったのでな」
 ――失点1、か。
肩を落とした副官を観た堂賀は軽く肩を叩きながら言葉を継いだ。
「ま、貴様は初めての仕事だ、もう少し経験を積めば目のつける所が分かってくるさ」

「――さて、行くか」




応接室に通された二人が椅子に腰かけると、数寸もせずに緊張した顔の番頭が慌てた様子で応対に出てきた。
「お待たせしました――えぇ
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