五月 栄光と黄金(上)
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頂ければご用意いたしますのでなんなりとお申し付けください」
暁美個人副官から案内された先に綴じられた書類の束をぱらぱらと捲り、監察官は頷いた。
「あぁ助かる。副官が来たらここで先に始めていると伝えてくれ」
「はい、首席監察官殿」
無感情に頷いた美貌の両性具有者は事務的な態度を崩さずに退出する。それを見送ると堂賀は苦笑して肩を竦めた。
改めて報告書に目を通すが、最初の一枚を読了する間もなく再び扉が開いた。
「――あの中年男が囲った情人に道案内されるってのも居心地が悪いもんだなぁ」
扉を閉めながら発した部下の独り言に堂賀はにたりと笑った。
「あれでも階級自体は貴様よりも上だぞ?余計なことを云って睨まれんでくれよ?
――まぁ気持ちは分かるがな。ありゃ俺達が嗅ぎまわるのを露骨に嫌がっている」
敬礼を奉げようとした矢先の茶々に青年大尉は目を白黒させるが、上官がその様子を楽しそうに見ているのに気がつくと脱力した様子で隣の席に座る。
――青いな。世慣れした様に取り繕っていても潔癖さが抜けないか。
分析されていることに気づく様子もなく馬堂大尉は上官に問いかけた。
「しかし、あの木で鼻を括った様なあしらいぶりは気になりますね。なにかあるのでしょうか?」
「さてな、どうとでもとれる。腹を探られるのは痛くなくとも不快なものだ。
今回はあくまで受勲対象の調査だ。魅力的な上司と初の遠出で気張るのは良いが、いたずらに首を突っ込んで粗を晒すと俺たちが上に絞め殺されるぞ」
堂賀がそういって背中をどやすと、馬堂大尉も苦笑を浮かべて答える。
「はい、そうですね。変に嗅ぎまわるのは心象が良くないでしょうし」
そう云いながらも馬堂大尉は綴じた書類束から一つを取り、目を通しだす。
「あぁ、ただでさえ面倒な仕事だが今回はその件も含めて憲兵の協力は必要最低限に抑えた方が良いだろう。可能な限り部隊内に協力者を得て行いたいからな、その点も踏まえてくれ」
堂賀も同様に再び書類の精査にとりかかる。
「はい、首席監察官殿」
その返事と同時にばさり、と紙をめくる音が響いた。
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同日 午後第一刻 皇州都護鎮台司令部庁舎内小会議室
兵部省陸軍局人務部監察課首席監察官 堂賀静成大佐
「――これで最後ですかね。後は当事者の話を聞きながら検証した方が宜しいかと」
三巡か四巡か分からぬが、最後の束を閉じると馬堂豊久は背筋を伸ばしながら云った。
疑問点を書き出した覚書を懐にしまいながら概要をそらんじる。
「六十名近くの匪賊が襲来した際に、邏卒以下の装備だった護衛2名を含めて鈴鳴屋の連中はほぼ全員が逃亡、呼子を鳴らしたのが精一杯の抵抗だった。
街道の巡視を行っていた井田中尉の小隊が急行し、鈴鳴屋の馬車を確保するまでは小半刻程度だが空白の時間が
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