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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
五月 栄光と黄金(上)
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功績となる」

「そうであって欲しいものです」
馬堂大尉がしみじみと云うと堂賀大佐も珍しく神妙に頷いた。
「――同感だ、問題ありだったら事後処理が面倒すぎる。表沙汰になる前に処理しなければならん――さて、そろそろ到着だ。用意は大丈夫だな、副官」

「はい、首席監察官殿」




或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
五月 栄光と黄金(上)




皇紀五百六十八年 五月二日 午前第九刻
皇州塞原 皇州都護鎮台司令部庁舎前
鎮台司令部 衛兵隊司令 本田良一中尉


「――来たか」
 退屈な衛兵司令をこなしていた本田中尉は眼前の光景に顔を引き結び衛兵たちを整列させる。黒塗りに兵部省の紋を描いた馬車の扉を副官が開き、機敏に横に控えるとその上官が現れた。黒衣の軍装に灰色の髪、そして猛禽類の眼光を宿した瞳と頑強な顔立ちをしたまさしく監察官といった風貌の大佐だった。
「兵部省陸軍局人務部監察課、首席監察官の堂賀だ。須ヶ川司令長官閣下にも局長閣下から連絡が入っている筈だが」

「はい、首席監察官殿。直ちにご案内するように命じられております」
本田は背筋を伸ばすと高速で頭を動かす。自分がどう振る舞うかで幸運が訪れる可能性もある、軍人稼業は嫌いではないが衆民将校としては上に目をかけられる機会がないと独り身から抜け出すこともできないのである。
「それでは、閣下との御面会の後でもかまいませんが、訪問者台帳にご記入していただきたいのですが」
本田の言に監察官は微笑した。
「分かった、そういった度胸は私も嫌いではない――君の名は?」

「はい、首席監察官殿。自分は本田良一中尉と申します」
 ぴしり、と背筋を伸ばして本田が答える。
「あぁ、覚えておこう――後で顔を合わせる事になるかもしれんからな」
ぼそり、と最後に呟くと兵部省から来た男たちは庁舎の中へと姿を消していった。


同日 午前第八刻
皇州都護鎮台司令部 司令長官執務室
陸軍局人務部監察課首席監察官 堂賀静成大佐


通された先には二人の男と一人の両性具有者が居た。一人は馬堂大尉も良く分かっている。出張前の下調べで軍歴も全て把握している男――司令長官である須ヶ川中将ともう一人は見たことのない大佐であった。
「早朝から失礼いたします、閣下。首席監察官の堂賀です」

「司令長官の須ヶ川だ。陸軍局長閣下から連絡は受けている。
首席監察官が態々出張るとは、ごくろうな事だな。鎮台司令部として協力するが可能な限り軍務に差し障りのないように審査は行ってほしい」
丸顔に特徴的な髭を生やしている須ヶ川は不審そうに訪れた監察官を眺めながらも協力する姿勢を強調する。年嵩は四十代後半といったところであり、猜疑心の強さをあらわすかのようにその視線
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