暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
五月 栄光と黄金(上)
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
皇紀五百六十四年 五月二日 午前第八刻
皇州 皇南街道 兵部省公用馬車内
首席監察官附副官 兼 監察課主査 馬堂豊久大尉


「――現在の皇州都護鎮台司令官は須ヶ川正孝伯爵中将閣下。龍州でいち早く五将家体制に帰順した将家の当主ですね。おそらくはこの後は大将に故郷の鎮台司令長官を務めて上がり、と云ったところでしょう。帷幕院長時代に拝石教の文化研究に関して幾つか論文を発表しているのが有名ですね。退役しても文化交流機関の長にでも再就職できるでしょうな」

「あぁ、それに軍人としての評価は別だが政治家としては中々のやり手だ。
特定の五将家に属さずに無傷のまま中立の神輿で居られたのだからな。誰からも憎まれずに面倒な地位をやり過ごし、将官になった意味が分かるか?」
 自分の上官が講義を始めた事に気づいた豊久は慌てて思考をまとめはじめる。
「そうですね――こんな類の事に関わる人じゃない、ですね。変に政争に巻き込まれずに無害な穴埋め役に徹して生きているのだから――そう、失態とて包み隠さず部下に押し付ける類の人だ。功績の捏造や失態の隠蔽に関わる人じゃない」
上官相手の言葉遣いを忘れる程に集中し、途切れがちながらも人物像を作成する若い副官に堂賀は満足そうに頷いた。
「類じゃない既に二度はやっている。うむ、それも正解だ。ならば貴様はどこを探るべきだと思うか」

「――問題があるとしたら下という事になるのでしょうか?」
 瞼を揉みながら発する馬堂大尉の問いかけに堂賀は楽しそうに頷いた。
「そうだ。勘付いているとしても司令部幕僚のところで止まっている――ことになっている筈だ」

「或いは旅団、聯隊の本部に、ということもありますな。そうなると徹底監査しなくてはならない。時間がかかりますね――かといって万一の事になったら天下に恥をさらすことになる」

「詳細はまず司令部を改めてからになるが――いまのところはそれほど必要を感じないな。
中間の部隊本部が握っているとしたら握り潰さずにさっさと司令部に上げて責任の所在をうやむやにしているだろう。佐官の将家将校たちにとっては、割に合わない金額だ――無論そうは思わないほどに腐っている場合もあるが、だとしても下を叩けば埃が出る。その時に念入りに上のやつらを締め上げれば良い。兎に角、今回は慣例則り上から順に、と云う風に仕掛けない方が良いだろうな」

「ならば――司令部と現場に臨場した中隊・小隊が本命ですか?――確かに、実行されたとしたらその段階でしょうね。鈴鳴屋の担当者たちに話を聞く前に念入りに報告書を精査する必要がありますね」
 青年副官の推測に中年の首席監察官も頷いた。
「うむ、問題があるとしたら一番上と一番下が叩くと埃が出る可能性が高い。言い換えればそれで問題がなければ問題なしだ。胸を張って陸軍の
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ