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剣の丘に花は咲く 
第六章 贖罪の炎赤石
第四話 迫り来る脅威
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足を再度動かし始める。
 歩き出したキュルケたちを、今度はコルベールは止めなかった。
 キュルケたちの姿が見えなくなると、コルベールは背後のゼロ戦に寄りかかり、晴れ渡った空を見上げ、

「……こんなわたしが……頼りになると……君は言うのかい」

 溜め息混じりの自嘲をした。







 トリスタニアの宮殿には、東の宮の一角に王軍の資料庫がある。
 そこは王軍でも高い地位にいるものしか入ることが許されない、特別な場所であった。
 限られた者しか入ることが出来ない資料庫は、出入りする者が少ないことや古い資料が多いためか、埃臭さやカビ臭さが鼻につく。周囲を照らす明かりも、歩ける程度必要最小限の明かりしかない。
 そんな薄暗い資料庫の中に、柔らかな曲線を描く影が見えた。
 影の正体、それは、銃士隊の隊長であるアニエスであった。
 国を上げての戦争が迫る中、近衛である銃士隊の隊長がこんな場所に居るのには理由がある。アルビオンとの戦争の最高司令長官であるド・ポワチエ将軍がアニエスたち銃士隊の参戦を拒否したのだ。
 最近目覚しい活躍が目に付き、さらに女王の懐刀である銃士隊は、元帥を目指すド・ポワチエにとっては邪魔でしかない。そのため、『近衛は女王の護衛に専念されたい』と戦争への参加を拒否したのだ。
 これが上昇志向の貴族ならば、一波乱や二波乱はあっただろうが、名誉欲や地位にさほど興味がないアニエスにとっては別にそれは構わなかった。いや、それどころか都合がよかった。
 ……故郷の仇を見つけ出すのに。
 戦争に参加しなくてもいいということで、空いた時間を利用したアニエスは、資料室に二週間こもった結果である、とある資料に視線を下げていた。
 アニエスの手に持たれた資料の表紙には、『魔法研究所(アカデミー)実験小隊』と記されている。
 それがアニエスの村を滅ぼした部隊の名であった。
 微かに震える手で、一枚一枚ページを捲るアニエス。
 ページに落とす視線は、まるで刃物のように鋭い。
 資料の中には、アニエスの村を滅ぼした小隊の隊員の名が記されていた。村が滅ぼされ、随分と時間が経っているため、既に死んでいる者も多い。不意に、一定の間隔でページを捲られていた手が止まった。

「……破れて……いや、これは……破かれたのか」

 アニエスの手が止まった原因は、隊員の名が記されていたページの一番最後。部隊を率いていた隊長の名が記されていたと思われるページが破かれていたのだ。
 それも自然にではなく、明らかに人の手によって故意に破かれている。
 震える手で資料を閉じると、元にあった場所に戻す。
 震えを止めるためか、アニエスは両手で自身の胸元を掴むと、身体を丸めると共に込められるだけの力を込めた。震える身体を資料が収
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