第二部
第一章 〜暗雲〜
九十三 〜謎の少女〜
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らず、敵兵は再び村の方へと駆けていく。
「ほう。態々死にに来たか」
「ひっ!」
返り血を浴びた彩が、槍を手にニヤリと笑う。
美麗な顔立ちだけに、より凄みが増している。
「ま、待ってくれ! 降伏する!」
一人が剣を投げ捨てると、生き残っていた者が次々に倣った。
「頭! どうする!」
彩が片目を閉じて見せた。
ふっ、何処までも芝居で押し通す所存か。
ならば、久々に武州時代の言葉遣いで返すとするか。
「俺ぁな、官軍は皆殺しと決めてんだ。そうだろ、張の字?」
「だな。なら、やっぱあの世へ送ってやらぁ」
「頼む! 命だけは!」
「金か? 金ならあるぞ、全部やる!」
恥も外聞もないとは、正にこの事だな。
「お頭。有り金を差し出すと言うのなら、命だけは……どうかしら?」
紫苑までも、いつもの柔らかな口調ではなく、凄みを利かせるとは。
「おいおい、黄の字。そいつは甘いぜ? ぶっ殺して、有り金いただこうぜ?」
「まぁ、待て。おい、おめぇら」
私は、恐怖で身を竦ませている敵兵の一人に近づき、胸倉を掴んだ。
「ひっ!」
「おめぇらの頭はどいつだ?」
「あ、あ、あれです!」
震える手で、敵兵は別の一人を示した。
なるほど、確かにちょっとした指揮官のような風貌だ。
「よし。おい、そいつをあの大木に縛り付けろ」
「へい!」
我が軍の兵が数人がかりで、その男を取り押さえた。
「な、何しやがる!」
「お頭の命だ。悪く思うな」
「や、やめろ! やめてくれ!」
男は足掻くが、屈強な男達の前では無駄な抵抗に過ぎなかった。
指示通りに大木に縛り付けられ、男は絶望の色を見せる。
私は剣を抜くと、男に近づいた。
兼定は愛紗に預け、顔の下半分を覆っているせいか、敵は誰も私には気付かぬようだ。
「おい」
「な、な、何の用だ?」
「おめぇに、聞きたい事がある。全部喋って貰うぜ?」
「お、俺は何も知らねぇ! ほ、本当だぜ?」
「そうか。なら、死ね」
そう言い、私は剣を振り下ろす。
「ひぇぇぇぇっ!」
無論、即座に斬り捨てるつもりなどない。
剣先はぴたりと、男の髪に触れる程度で止めていた。
ふと、足下から異臭が漂い始めた。
「お頭。そいつ、漏らしてますぜ?」
「へっ。びびって小便漏らすとはだらしねぇ」
「あらあら、いい年して。お頭、ちょっと的にするわね」
見ると、紫苑は弓を構えている。
「や、やめろっ!」
「手が滑ったら許してね。弓にはあまり自信がないの」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
立て続けに放たれた矢は、男の頭上、脇の下、股間などに一寸だけずれた箇所に突き刺さる。
「う〜ん、やっぱり下手ね。じゃ、今度は目玉でも狙おうかしら?」
「や、やめろ、止めてくれ! 話す
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