第二部
第一章 〜暗雲〜
九十三 〜謎の少女〜
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身体を震わせている。
いや、私も無論怒りは覚えている。
だが、それを露わにする訳にはいかぬ。
「彩。騎兵を率いて、村の反対側に廻れ。そして、頃合を見て一気に攻めかかれ」
「承知しました。では!」
「紫苑。弓兵を二手に分け、村の周囲に潜ませよ。彩の攻撃で逃げ出す者を、片っ端から射よ」
「はい!」
彩はすぐさま駆けて行く。
紫苑は、兵は分けたが自らは私の傍から動こうともせぬ。
「ふっ、護衛という事か」
「そうですわ。歳三様に何かあったら、愛紗ちゃん達に申し訳が立ちませんから」
「良かろう。だが、兵らの指揮は良いのか?」
「ご心配には及びませんわ。それぞれに、信頼の置ける子が率いていますから」
「ほう。紫苑がそこまで申すのなら、さぞや優秀な者なのだな?」
「うふふ、それはどうでしょう。歳三様のお眼鏡に適えば宜しいのですけど」
「私が紫苑を信じている以上、その者らも当然信じる事になる。それだけの事だ」
と、紫苑がふう、と溜息をつく。
「如何致した?」
「いえ。ただ、歳三様はどうしてそうなのか、と」
「……何かおかしな事を申したか?」
「おかしくはありませんわ。そう、おかしくは」
そう言いながら、また溜息を重ねる紫苑。
「こ、黄巾党だーっ!」
「そ、そんな馬鹿な!」
乱暴狼藉の限りを尽くしていた兵共が、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
「一人たりとも逃がすな! 敵は我らを虐げてきた官匪共だ!」
「応!」
号令をかける彩、そして兵らの頭に巻かれている黄色の布。
無論、嘗て黄巾党が自分たちの象徴としていた格好である。
何より、我が軍には元黄巾党の者も多いのだ。
芝居をせずとも、見事に板についている。
「死ねっ!」
「うぎゃっ!」
李カクや郭シの兵は、無力の庶人には当然強い。
だが、彩は名だたる猛将、率いる兵も猛者揃い……相手になる筈もない。
抵抗を試みる者らもいたが、忽ち斬り伏せられていく。
中でも、彩の無双ぶりが際立っていた。
長沙以降戦らしい戦もなく、それでいて緊張を強いられていた故、鬱憤が溜まっていたのであろうか。
「歳三様。敵兵が此方に」
「よし。数名やり過ごし、その後に一斉に放て。やり過ごした者は紫苑、頼むぞ」
「お任せ下さい。では、合図を」
「はっ!」
紫苑が請け負った通り、弓兵隊は一糸乱れぬ動きを見せた。
矢一つ一つに無駄がなく、確実に敵兵を仕留めていく。
「ま、待ち伏せだ!」
「クソ、斬り破れ!」
自棄になった者共が、私の方へと向かってくる。
「近寄らせませんわ!」
番えた矢を、まさに神業とも呼ぶべき迅さで放つ紫苑。
眉間に首筋、急所を的確に射貫いている。
あの弓に狙われては、私とて躱す自信などない。
堪
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