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魔王の友を持つ魔王
§22 染井吉野が鳴く頃に
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は限りません。ここで下手にマスターが動くと、マスターへの警戒度数を引き上げることになりかねませんよ」

 私としてはマスターに恵那さんを救出して欲しいのですが一応お伝えしておきます、と言うエルに黎斗は頭を悩ませる。情報の拡散が、早すぎる。もっとも古老の中でもおそらく須佐之男命に次ぐであろう権力者達が一昼夜にして脱落したのだからしょうがないともいえるが。

「ついでにそんな状況ですので正史編纂委員会の皆様はもう阿鼻叫喚です。甘粕さんはもう見るからにゲッソリした表情で電話をかけっぱなしですし。つい先程とうとう処理に向かわれました」

「甘粕さん……」

 被害者側とは言え間接的に黎斗が彼らの仕事を増やしたも同然、そう考えると罪悪感がわいてくる。正当防衛ではなく過剰防衛だ、と言われればそれまでだ。神達はともかく雑魚軍団くらいは上手くすれば生かせたかな、と少し反省する。

「エル、事態を早期収拾させよう。護堂を無理矢理動かすしかない、か」

 自販機に百十円を投入。がこん、と音がして冷え冷えのミネラルウォーターが落ちてくる。少名毘古那神の権能で中の水を癒し効果のある温泉水に。一応予備でもう一個。

「さーて、行きますか」





 ”鳳”を発動。神速という力を手にした護堂は、巨大な刀を余裕で回避。巨人の腕代わりの刀を易々と駆け上がる。絶妙なバランス感覚が無ければ出来ないであろう芸当も今の彼には児戯に等しい。

「……お気楽そうにしてるなコイツ」

 あっという間に恵那の元へたどり着いた護堂は救出作戦を敢行。まず、引っ張ってみる。しっかり捕らえられていて動きそうに無い、失敗。次。引いて駄目なら押してみろ。押してみると隙間が少し出来た気がする。気のせいかもしれないが。もう一回、今度は引っ張ると、身体を少し解放できた。力を込めてまた引っ張る。

「頼むから持ってくれよ……!!」

 ”鳳”の制限時間は決して長いわけではない。ここで切れてしまえば恵那は助けられないわ自分は落下するわで散々なことになる。

「うし!」

 押したり引っ張ったりを繰り返すこと数度、ようやく恵那の解放に成功した護堂は彼女を抱いて一目散に大地へ疾る。心臓の痛みが少しずつ、強くなっていく。残された時間はもう無い。

「ぐっ」

「草薙さん……」

「王様と祐理? なんでここに? ってあれ?」

 祐理の元へたどり着くと同時に、時間切れ。激痛に顔を歪める護堂、心配そうに寄り添う祐理、状況をよく理解していない恵那。だが、巨人(てき)はそんな彼らを待ってくれるわけではない。

「くっ、二人とも早く逃げろ。鈍重そうな外見と移動速度とは裏腹にアイツの反応意外に機敏だぞ」

「草薙さんをおいて先には、行けません!!」


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