第五話 好きだから仕方ないその三
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「これは私の負けかしら」
「アンネット!」
ルシエンはまた叫ぶ。
「今日こそは!」
「まあいいわ」
ルシエンに見えないように真正面を見てくすりと笑った。
「今日は。負けてあげる」
気付かれないように速度を緩める。程なくしてルシエンが追いついてきた。
「よし!」
ルシエンが喜びの叫びをあげる。
「追いついたぞ!アンネット!」
「速いわね」
演技で悔しがってみせる。
「まさか負けるなんて思わなかったわ」
「何があっても追いついてやる!」
力瘤を入れて断言する。
「今日は。上手くいったみたいだな」
「そうね」
「それで約束だ」
ゴーグルを外してアンネットを見詰める。こうして見ればかなりの美男子であると言ってもいい。波がかった髪の毛も似合っている。アンネットとしても申し分はないのだ。だが彼女としてもそうおいそれとは自分の本音を見せるつもりはない。これは彼女にとってもゲームなのだから。
「デートだ」
「何処にするの?」
「街のテーマパーク、あそこでどうだ?」
「オーソドックスね。この前貴方が勝った時もそうだったのじゃなかったかしら」
実はアンネットが負けたのは今日がはじめてではない。何回か負けている。わざと負けてみせた時もあれば本気でやって負けてしまった時もある。その辺りは複雑であった。
「そうか。じゃあ」
「駅前のデパートなんてどうかしら」
アンネットの方で提案してきた。
「丁度買いたいものがあるのだけれど」
「じゃあそれでいこう」
ルシエンは言った。
「駅前のデパートで、時間は」
「土曜日ね」
「それでいいんだよな、土曜日に駅前のデパートでデートで」
「待ち合わせ場所は駅前の噴水ね。十時」
「ああそれで」
何か話は全てアンネットによって決められてしまっている。ルシエンは完全の掌の中にいるが彼自身はそれに全く気付いてはいなかった。
「土曜日の十時だ。じゃあ」
「ええ」
にこりと笑ってそれに応える。約束が終わったルシエンは満面に笑みを浮かべて叫ぶ。その姿はまるで別人のようであった。
「やった、やったぞ!」
全身で喜びを表わしている。
「アンネットとデートだ!やった!やったぞ!!」
「あら、アンネットが負けたみたいね」
蝉玉と彰子は遠くからその様子を見ていた。蝉玉がルシエンの叫び声を聞いて言う。
「ルシエンだらあんなに喜んで」
「勝ったからなのね」
「そうね。いつもながら凄い喜びよう」
「アンネットもあんなに好かれてるんだから付き合ってあげればいいのに」
彰子はアンネットを咎めるようにして言う。
「ルシエンの何処が不満なのかしら」
「あんたはもうちょっとそっちのことを勉強しなさい」
蝉玉はくすりと笑ってそんな彰子に言った。
「!?
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