メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
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ね。」
綺麗、そう。今改めて見てみると、綺麗だった。月明かりに照らされるこの小さな花は、優しく輝いているから。その姿を見て、私はスーさんの事を思い出した。小さな彼女は、いつもにこやかで、優しかった。
昨日の彼女の流した涙の意味が気になった。あの時の私は、何故疑問に思わなかったのか分からない。悲しんでいる顔が見たかった?分からない。私は彼女が嫌い?分からない。違う。絶対に嫌いではないのだ。何故嫌ったのかも分からない、ただ、今は彼女の事が心配になった。私に向けられた笑顔も、仕草も、今は全て違う感情が私を覆っているのに。それが何かは分からないのだけれど。
私の思考は完全に停止した。彼女達が何か口論を始めたようだが、全く耳に入ってこなかった。少しの間、意識がなくなったかと思えば、空がパッと明るく光った。彼女達が何か光を出して戦っていた。そうだ。こういう景色を昔見たことがあった。記憶がはっきりと蘇るのは初めてのことだった。
花火、というものだったと思う。夜空に輝く沢山の花のように様々な色の光を出していた。記憶の中の私は人形を腕に抱いて一緒に花火を見ていた。その人形こそが私だった。その時の私は、無表情だったけど、幸せだったと思う。沢山の人間が笑顔で、その光を見ていた。その光景を見て私は・・・・とても綺麗だと思ったのだ。夜空に咲く大きな光の花も、それに照らされていた人間の笑顔も。
その時の私は、世界が色鮮やかに輝いた気がした。この世界はこんなにも美しいと。目覚めた時の思いとは、全く別の、真逆の感情が支配している。あの時の私は全てが憎かったはずなのに。抜け落ちた記憶の間に何かがあったのか。今の心が本当の私の心なのか。私の名前は?どうして私はあそこにいたの?何故今まで気にならなかったの?何故昨日と今日でこんなにも―――。何も思い出せなくなった。何も分からなかった。ただ、スーさんに会いたくなった。今私が抱えている不安も、思いも、会えば何か分かる気がしていた。居なくなってから随分な時間が経ってしまったのに、いつまで経っても帰ってこない。本当に帰ってこない場合、私はどうしたらいいのだろうか。彼女たちを残し、私は立ち上がった。やっぱりうまく体が動かない。少しフラフラとしながらも、探し始めた。今度は鈴蘭を踏まないように探した。自分でもどうして必死になっているのか分からなかったけど、スーさんを呼び続けた。このまま見つからないと会えないような気がしたからだ。重たい足取りで、鈴蘭畑を出た時だった。私の体は完全に動かなくなった。意識が遠くなる。
メディスンが私を探している気がする。
いつもの鈴蘭畑で。
ここからだと聞こえるはずもないのだけれど。
メディスンが、あの時の私と同じだったのなら叫んでいるかもしれない。
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