暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
[17/17]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
して背中を向けて立ち去っていく。馬と率いて闊歩する様は堂々たるものがあり、若き支配者としての片鱗を覗かせていた。
 厩舎に一人残された慧卓は、晩餐時に感じたものよりも強い無力感に支配されていた。己を律して建前を貫こうとした結果がこれである。賢人の人形のように望んでもいない侮辱を吐いた。それが逆に気遣われ、最終的に残ったのは執政官補佐役として獲得した賢人との友好関係であった。その関係の獲得も、己の未熟なプライドを自分の手で棄てた結果として出たものであり、達成感や爽快感といったものは皆無であった。ただただ己が情けなく思えて、慧卓は膝を抱えて蹲る。騎士へ叙任され、王女と恋仲となり、大任を成就しようと浮かれていたのであろうか。その様を年上の周囲は生暖かに見詰めて、都合の良い道具として利用していただけなのか。その従順ぶりが哀れに見えてソツは自分をあんな風に見ていたのか。
 ぽつん、ぽつんと、雨粒が葉や屋根を叩く音がし始める。ものの一分もしない内にその音は一気に強くなり、予想していた通りの豪雨が吹き荒れ始めた。この残響の中でなら、少しは自分を慰められるかもしれない。こんな姿は誰にも見えないし、誰にも見せられない。慧卓は膝に目元を押し当てて、声にならぬ嗚咽を零していく。ミカが耳をぴくりと動かして俄かに頸を上げるが、慧卓を見遣って直ぐに頸を丸める。誰にも邪魔されぬ大雨の中、慧卓は胸を痛ませていた。
 人生、何もかも自分の思い通り、考え通りには運んでくれない。そんな当たり前の事実を見に染みて理解した、初めての挫折であった。



[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ