第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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あろう、強烈な視線であった。
残されたのは慧卓ら一行と現領主の支持者達のみ。キ=ジェは大袈裟に手を叩きながら慧卓を賛美した。
「ふはははは・・・なんとも見事な口八丁であったな、ケイタク殿。感謝するぞ、御蔭であの出来損ないはここから消え失せる!」
「俺からも感謝を言うぞ、補佐役殿。よくぞ俺が後継者に相応しき男であるといってくれた、礼を言う!」
「・・・ありがとう、ございます」
本心では、全く感謝する気にもなれない。だが職責を全うしなければという義務感が彼の口に礼を述べさせた。責める対象が居なくなった事で、過剰な演技で憔悴した心が表情に表れている。
これで自分の義務は果たした。ならば相手もそれに応じた対価を支払うべきだ。慧卓は約定を思い出して賢人に問う。
「ところで賢人殿、御約束の件ですが」
「ああ、約定であったな。勿論、貴様の謝罪は受け入れてやろう。領主として誓おう。この村においてはこれ以上人間に対する差別をせん」
「・・・それだけですか?」
「何を期待している?俺は相応の対価を支払っているぞ。村の統治における、大事な問題の解決に手を貸してくれたのだ。だから俺は領主として、お前に対価を払おうと言っておるのだ。・・・矢張り人間というのは浅知恵の欲無し共の集まりか。まぁいい、今日の俺は機嫌が良いからな。嘲りはこの程度にしておこうぞ。感謝しておけ!!」
無情なまでに哄笑が慧卓の頭を揺さぶった。人々が思い思いに慧卓を見遣り、部屋を退出していく。俯いたままの慧卓は少しばかり幸運なのかもしれない。仮に頭を挙げて彼らを見遣れば、その口端の歪みを否応無く見てしまうからだ。
そして室内には誰も居なくなり、慧卓らと給士だけが残るだけとなった。膝の上で拳を握って悄然とした表情を浮かべた彼に掛ける言葉が見付からず、パウリナは形の良い眉を垂れさせた。ユミルもまた何とも言えぬ気持ちとなったのか、無言で慧卓の頭を撫でる。子供をあやすような優しき手付きに、慧卓は出掛かった涙が目端から毀れるのを感じた。
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宴が終わった日、慧卓は一睡も出来ずに居た。悔恨の念が胸を締め付けたままで、眠気が一粒たりとも頭に到来しないのだ。そのままじっとしているとまた泣いてしまうと思った慧卓は、真っ黒な雲が天を覆う深夜に関わらず、厩舎に立ち寄って小さな恐竜、ミカと戯れる事とした。といっても今は彼女にとって睡眠時間中。慧卓が出来るのは厩舎の柱に寄っかかりながら、彼女の寝顔を観察する事だけである。常の己以上にぐっすりと眠りこける姿を見て、慧卓は自然と心が癒されるのを感じた。言い方を変えればただの現実逃避でもあるのだが、慧卓はそれを気にする余裕を欠いていたのだ。
散々な晩餐会でであった。補佐役として
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