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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
四月期 新任大尉の着任報告
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どうするのだ?」

「え?」
 硬直した息子に容赦なく父は追撃をかける。
「馬堂家をお前の代で潰すつもりか?」

「え?」
 あまりにも唐突な話題転換に豊久は完全に硬直した。
「それは困る、なにより私も孫を見てから死にたいからな」
 便乗した豊守は実に楽しそうにしたり顔で頷くと豊長が更に畳み掛ける
「儂も曾孫が成人するところくらいは見て死にたい、あぁ、娘一人と息子一人だと良いな。
うむ、実に良い」
 
「え?え?」

「というわけで、お前も大尉になったことだ。お前が皇都に居るうちに縁談をまとめたい。
なに、安心しろ。雪緒達とも相談して良い相手をみつけてやるさ」
 敵勢の混乱を見抜いた軍事官僚は容赦なく潰走するまで攻勢を続ける。
「・・・・・・え?」

「うむ、せっかく馬堂の者が全員、皇都に揃っておるのだ。豊守が皇都から転任される前に済ませなくてはならんな。うむ、実に喜ばしいこれで肩の荷が一つ下りる」
豊長がわざとらしいほどにしみじみとそう云いながら頷くのを阿吽の呼吸でその息子が引き取り、結論を告げた。
「と、いうわけで夏までには見合いに漕ぎ着ける、いいね?」
 
「ア、ハイ」
 ――おかしいなぁ、単身赴任から帰ってきたのにこっちの方が胃が痛いよ?
給仕を務める辺里がそっと差し出した茶が黒茶ではなく薬茶であることに気づいた豊久は弛緩した笑みを浮かべてそれを啜った。


四月二十八日 午前第十一刻
兵部省 陸軍局人務部 監察課 
首席監察官附副官 兼 監察課主査 馬堂豊久大尉


「――酔っぱらった兵たちが果物を利用した即応防御戦術演習をおっぱじめて果樹園を荒らされた?こんなもの聯隊長あたりで処理できる問題だろうが。
苦情を出したのは――州議だと?話を大きくして実績作りか、衆愚政治だな―― 一応は官房か局長まで上げるか首席殿の判断を仰ぐか。
――匿名で横流しの告発か。前任者の泥を被るつもりはないって事だろうな――これは企画官殿に割り振って随時監察で判断すれば問題ないな。特別監察にする程の案件じゃないだろう、こっちは判子だけ貰っておこう。――しかし、送られる先は北領鎮台の兵站部か、この調子だと当分、俺らと企画官殿達だけで課の業務を回さなきゃならんな」
 ばさばさと月末――異動が落ち着いてから急に増え始めた苦情申し立てや事故の報告書の束を裁きながら自身の上官に上げる書類の分別を行っている。その分量は膨大なものである。課附きの主査を兼任しており、隣の企画官室との連絡役も担っているのである。
「――こんなんで有事になったらどうすんだ?」
 そうぼやきたくなる程、大量の不手際や汚職の告発の津波が監察課を襲っている。着任後の揉め事・混乱は豊久自身も経験が無いわけではないが情報が集約されるとその量に
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