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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
四月期 新任大尉の着任報告
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しては順調な出世街道を歩んでいると云えるだろう。この人の下で学べるのは悪くない。
「はい、首席監察官殿。」

「君は豊長閣下のお孫さんだったな。私も昔はあの方の下で働いたものだった。
もっとも、あの方は皇都憲兵隊司令の大佐で私は大尉だった――私と君のようにな
大尉も馬堂豊長閣下の名に恥じぬ良き働きを期待している」
そして首席監察官は不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「それでは早速、仕事を覚えて貰おう。あと一月もしたら苦情の波が押し寄せてくるぞ。
それまでにここのやり方を覚えてもらうぞ」

「はい、首席監察官殿。」


同日 午後第八刻
皇都 馬堂家上屋敷 喫煙室
馬堂家嫡男 馬堂豊久



「今日でお前も正式に大尉か。それに兵部省勤務、悪い遊びを教わる時期だ。
――あぁ、しかもお前はその火消しにまわる部署だったな」

「父上は経験が?」

「ない――だが人務第二課に居た時にはなんどか出入りしている。
まぁなんだ。あそこで生真面目にやっていると爪弾きにされるのがオチだ。
加減が重要だ、腐らせるのも問題だからな。上手くやらないと今後、軍に居られなくなる。
――それで馬堂大尉クン、監察課員となった気分は如何かな?」
そう云うと軍監本部兵站課運輸班長にして軍政家としての名望を築きつつある馬堂豊守大佐は兵部省に抜擢された新任大尉へと実に楽しそうに笑みを向けた。
「父上、その不吉すぎる笑いはやめて下さい。――確かに、そうなると色々と学ぶことが多そうな場所ですね。御祖父様の弟子が直属の上官ですからそれはもう色々と」
――そうなると御祖父様の弟子って肩書は本当に頼もしいものだ。
豊久はため息をついた。

「弟子?誰だそれは?」
 自身の名前に反応し、豊長は退役してから打ち込んでいる杖の手入れから目を上げた。
「堂賀大佐です、確か御祖父様が皇都憲兵隊の司令をなさっていた時に新任の大尉だったとか」

「堂賀大尉――――あぁ!高等班の堂賀か!確かに目端の利く奴だった。
――そうか、もう大佐になっていてもおかしくないな」
そういうと嬉しそうに退役少将は嬉しそうに幾度も頷く。
「陸軍局の首席監察官か――あとはもう一つ部署を回れば准将だろうな。
うむ、お前も奴から学ぶことは多いぞ。これから先、堂賀の仕事を何一つ見落とすな。
いいか、情報の扱い方を学ぶ相手としてはこの〈皇国〉でも最高級だろう」
 豊長は鋭い視線で孫を見据える。
「――いいか。これから先、(まつりごと)に身を投じるのならば、絶対に学ばねばならんことだ。わすれるな」

「はい、大丈夫ですよ、形が変わっても馬堂は確と残して見せます」
 息子が口を引き締めて頷くと豊守は生真面目な顔で問いかける。
「それは良いがお前の先――子供は
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