A's編
第二十七話 前
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としていたであろう本を抜き出した。
不意に隣に現れた僕に驚いたのだろう。ショートカットの彼女は、僕に驚いたような表情を見せていた。その間、重心は元に戻り、彼女がひっくり返るような危機は脱出したようだった。
「えっと、これでいいのかな?」
僕は本を差し出しながら、彼女に問う。しかしながら、彼女は僕に驚いたような表情を向けるだけで、返答はなにもなかった。
いったい、どうしたんだろうか?
そう思っているのもつかの間、すぐに彼女は正気に戻ったように、手をあたふたさせて、慌てた様子で口を開いた。
「ちゃ、ちゃうんや。私が欲しかったんは、その隣や」
おや、と僕は思った。海鳴では滅多に聞かない関西弁だったからだ。イントネーションやらが全く異なる言語。別に偏見はないが、珍しいな、とは思ってしまう。いや、それよりも、もっと気にしなければならない点がある。どうやら、僕はとるべき本を間違えてしまっていたようだ。
「ごめんね。こっちかな?」
謝りながら僕は、手に取った本を本棚に戻しながらその隣の本を手に取る。
「そうや、ありがとな」
背表紙に手をかけた時から、自分の目的の本をとってくれたと思ったのだろう。彼女は、お礼を口にしていた。別にこのくらいなら何でもないが、お礼を言われないよりは、言われたほうが当然のことながら気分がいい。だから、僕も自然と笑みを浮かべながら手に取った本を彼女に手渡す。
「ん? この本は……」
「なんや、知っとるんか?」
彼女に手渡す前にタイトルに目を走らせると、そこに書いているタイトルは、僕が見覚えがあるタイトルだ。現在、六巻が発刊されているハードカバータイプの本であり、内容は現実世界からファンタジーの世界に召喚された男の子が、異世界で頑張るお話だ。そこら辺に転がっていそうな内容であるが、王道と意外性が織り交ぜられており、さらには作者の力量も高いため、内容の割には僕も読んでいる作品だった。
「うん、僕も読んでるからね」
「そうなんかっ!?」
僕が本を読んでいるというと彼女は、目を輝かせて僕を見てきた。そんな彼女の反応を見て、僕は思わず苦笑してしまう。彼女の反応が同好の士を見つけた時、そのままだったからだ。同じ趣味を持つものというのは、同じ趣味を持つ人とその内容について語りたいものである。もちろん、自分だけの趣味という人もいるだろうが、どうやら彼女は、僕やすずかちゃんと同じタイプのようだ。つまり、趣味が読書で、その内容について語りたいという人間だ。
「うん、この最新刊には気付かなかったけど、六巻までなら読んでるよ」
そう、僕が手に取ってのは、その本の六巻だった。運動会から忙しかったからチェックが漏れていたが、いつの間にか七巻が発
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