A's編
第二十七話 前
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とながら、サッカーなどできるはずもない。一緒にサッカーをするはずだった面々は、おそらく室内の遊びに切り替えて今も遊んでいることだろう。僕としてはぽっかりと空いてしまった空白の時間。数週間前までは、自分があと一人ほしいと思っていたほどに忙しかった僕からしてみれば、不意に空いた時間は実にすることがなかった。
だから、返却期間も近いこともあって、こうして図書館まで繰り出してきたのだ。アリシアちゃんも最初はついてくるつもりだったらしいが、場所が図書館と聞くと考えるような仕草をした後に、苦渋の選択という風に家で、宿題をすることを選んでいた。図書館とアリシアちゃんというのはあまり相性がよくないらしい。
こうして、一人で図書館へとやってきた僕は、返却するべき本を図書館の職員の人に返却して、新しい本を探すために本棚の間を歩いているのだ。
僕よりはるかに高い本棚を見上げながら、目的の本を探す。基本的に僕は乱読派だ。ミステリーもサスペンスも随筆もファンタジーもなんでも読んでいる。目に留まった面白そうなものに手を出しているのだ。だから、特に目的があって、本棚の間を歩いているわけではない。
だからだろう、彼女が僕の目に留まったのは。
「ん?」
僕の視界の端に映ってきたもの……いや、正確には人というべきなのだろう。
茶色の髪を髪留めでショートカットの女の子が、車椅子に座ったまま必死に本棚に向かって手を伸ばしている。手が届かないところであれば、職員を呼べばいいのだろうが、もう少しで手が届きそうな中途半端な位置だ。もちろん、僕のように立っていれば、普通に取れる位置だが、彼女には取れない。特にけがをしているようには見えないが、車椅子に座っているということはそういうことなのだろう。
彼女の様子を見て、僕は少しだけどうしようか、と躊躇した。普通ならば、彼女の代わりにとってやればいいのだが、障がい者の人は、自分でできることは自分でやる傾向がある。僕が手伝ったとしても余計なお世話になる可能性もあるのだ。逆に手伝ってしまったことが、彼女に心労をかけさせるかもしれない。そう思うと簡単に手伝えなかった。
しかしながら、僕が悩んでいる間に、そう簡単に放っておくわけにはいかなくなった。なぜなら、彼女は、おそらく下半身が動かないのだろう。だから、上半身だけを本棚に近づけて、目的の本を取ろうとしているのだが、彼女が前に体を乗り出したせいで、重心が前に移り、もう少しで来る前椅子がひっくり返りそうになっているからだ。さらに、最悪なことに彼女自身がそれに気づいていない。
ここまでくれば、躊躇している余裕はなくなったといっていいだろう。
僕は、足早に彼女に近づくと、彼女が手を伸ばしている方向にある本棚の中から、彼女がおそらく取り出そう
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