A's編
第二十七話 前
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クのバトン。意外とスピードに乗りながら渡すというのは難しいものがあるが、練習の成果が出たのか本番にも関わらずスムーズにバトンを渡すことができた。
団子状態からいち早く抜けた出したのは、僕ともう1クラスだった。ほぼ同時に抜け出だした僕たちだったが、相手が悪かった。僕と同じアンカーとはいえ、僕とは異なり、純粋に走力で選ばれたのだろう。200メートル走でも1位を取っていた彼だ。もっとも、リレーのアンカーは運動場を一周するので400メートルはあるのだが。
一方、僕ともう一人が4位争いをする中、1位から3位はというと、2位と3位は、4分の1周先、さらに1位は半周程度先といった程度だろうか。はっきり言って普通に考えれば逆転劇など望めるべくもない。ましてや相手はアンカーなのだから。
―――会場のだれもが、そう思っていただろう。僕でさえそう思っていたのだから。しかしながら、その予想は覆された。僕にも理由はわからない。ただ、本気で走ろうと思っていただけだ。学年別対抗リレーは、ほぼ最後の競技に近く、後のことは考えなくてもいい。だから、今までは後のことも考えていたが、今だけは全力で走ろうとそう思っていただけだ。
それなのに、気が付けば一緒に走っていた彼を置いてきぼりにして、半周程度のところで、2位と3位に並んでしまった。周りから歓声が聞こえる。信じられないという表情も見える。だが、一番信じられないのは僕だ。どうして、こんなに走れるのかわからない。しかも、まだまだ余力があるのだ。驚かずにはいられないだろう。もしも、僕が冷静だったら、この後ばてたように見せて減速することも考えられただろう。しかし、まるで自分の体が自分のものではないような感覚は、驚きとともに恐怖を覚えさせる。
だから、減速することなんて忘れてしまっていた。ただただ、最初の目標のように全力で運動場を駆け抜けてしまった。
1位の彼も僕が追いついてくるのを見て焦ったのだろう。ラストスパートを自分が考えていた位置よりも早く切ってしまったようだ。そのため、ゴール前でばててしまったようだ。ガクンとスピードが落ちるのがわかった。そして、僕はそんな彼をしり目に残り数メートルというところで、彼の横を通り抜け、1位でゴールテープを切った。いや、後のことを考えるに切ってしまったというべきだろう。
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、僕は自分の足と手を見た。そこにあるのは間違いなく9年間ずっと一緒にいる手足である。だが、しかしながら、それでも今すぐに本物であると断言することはできなかった。
不可解な感覚に襲われながらも僕は、僕たちは学年別リレーで1位になってしまった。しかも、はたから見れば、すずかちゃんから僕への最後の逆転劇というある種のドラマチックな終わり方だ。運動会の後も興奮気味
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