第七章 (3)
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。手を伸ばしてみる。指先は、青いスクリーンの表面を撫でただけ…。スクリーンの向こうは、私には触れられない別の世界。ここは綺麗だけど青白くて、暗くて、とっても冷たい。
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――海の底にいるみたい。
私の思いに、もう1人、別の誰かの声が重なった気がした。…そうね。私もあの子とおんなじね。
ご主人さまに触れられない手なんて、ないのと一緒。ねぇ、ご主人さま。聞こえる?
「ここは海の底、みたいです…」
――ダメ!こんなこと考えてちゃ!
最近、1人で起動してる時間が長すぎて余計なことばっかり考えちゃってる。私とご主人様は、在り方が違うだけ!柚木や紺野さんみたいに触れないけど、ずっと、ずっと一緒にいられるんだから!ご主人さまの好きなサイトだって、好きな食べ物だって、いっぱい知ってるもん!……作れないけど。
「…あのさ、紺野さん」
「お、なんだ?」
「あの珈琲、もう一杯ほしいんだけど」
――ほらね!ご主人さまは珈琲が大好きなの。だから私は、おいしい珈琲の淹れ方を50通りくらい知ってる!…どれが一番おいしいのかは分からないけど。
「おぉ、ちょっと待っていろ」
「あ、いいよ。私がやる!」
柚木が立ち上がった。
「でも豆の挽き方、分かるかい」
「分かるよ。うちの実家、喫茶店だもん」
「…いいなぁ。柚木ん家の子だったら、おいしい珈琲飲み放題かー」
「もー、姶良は。子供みたいなこと言わないの!」
柚木は怒ったような口調なのに、少し笑ってた。そして、腕をかるく上げてポンと叩くと
「じゃ、純喫茶『ルベド』看板娘のウデを見せてあげる!」
柚木の手が、ご主人さまの肩を軽く叩いた瞬間、つい大声がでた。
「わ、私がご主人様の珈琲、淹れるんですから!!」
寝室の暗がりから、ビアンキの声が聞こえてきた。紺野さんと柚木が顔を見合わせ、僕に『何が起こってるんだ』と言わんばかりの視線をよこしてくる。そんな目で見られたって、僕だってよく分からない。
「ビアンキ…ちゃん?どうしちゃったのかな?」
一応、ご機嫌取りモードでビアンキに近寄る。ビアンキは、運んで欲しいときにする『持って持って』のしぐさを繰り返していた。…暗がりに1人で置かれて、寂しくなっちゃったんだろうか。
「寂しくなっちゃったんじゃないですから!」
僕の考えを見透かすように、ビアンキが釘を刺してきた。
「はいはい…じゃ、ここでいいかな…」
4人掛けソファの、紺野さんの隣にノーパソを置く。ビアンキは澄ました顔で、高らかに宣言した。
「ご主人さまの珈琲を淹れるのは、メイドのお仕事です。お客様にさせるわけには参りませんから。柚木、お座りください」
……3人で、息を呑んで画面を注視した。宣言したはいいけれど、彼女はこ
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