第七章 (3)
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…と危なっかしい音を立てて、網膜認識中の画面が立ち上がった。ひとまずほっとして、ビアンキの起動を待つ。
「私のも大丈夫かな」
よく分からないなりに、話がひと段落したことを悟ったのか、柚木は広々としたリビングルームに帰ってしまった。…さっきはあれほど食いついてたくせに、興味が逸れるのは一瞬なんだな。
「――ご主人さま!」
起動音と重なるように、ビアンキが話しかけてきた。泣きそうな表情と、なにやら背後に膨れ上がる、とてもじゃないが一度に処理しきれないほどのウイルスの塊。それはグロテスクな蠢動を繰り返して『リンゴ』の形をとろうとするけど、形がまとまりかけると、どこかが『ぼこり』と綻びて、綻びから這い出した無数の触手がリンゴを飲み込み、再びカオスに戻る。
「………なに、これ」
「あの子が出たんです!」
「例のMOGMOGか!?」
紺野さんが身を乗り出して画面を覗き込み、息を呑んだ。
「……おい、これやばいぞ!!」
そう言い残して、凄い勢いであとじさると、CDの山からケースを一つ引っ張り出し、僕を押しのけて強引にスロットに押し込んだ。
「ちょ…マスター以外の操作は受け付けられないですから!」
「姶良、許可しろ!」
「ビアンキ、かまわない。インストールしてくれ」
言い終わると、ビアンキの姿がDos-vの黒いウィンドウに切り替わり、夥しい行数の数列が猛烈な勢いで画面を上昇した。次々に開く黒いウィンドウの、チカチカ明滅するカーソルの後ろに、関数らしきものを素早く打ち込んではリターンキーを押す。それを繰り返す。紺野さんの額に、汗がにじんだ。
「……キリがない……!」
「なに、これ」
自分のノートパソコンの無事を確認して満足したらしい柚木が、ひょこっと顔を出した。
「な、なんかビアンキがやばいことになってるみたい」
「ウイルス感染だ。結構、やばい。とっさに被害を最小限に押さえ込んだ判断力は、さすがMOGMOGだが、データはいくつかやられたぞ」
「いいよ、どうせ大したもん入ってないし」
「…感染ファイル削除…っと。おい、終わったぞ」
画面を覆いつくしていた黒いDos-vウィンドウが消え去ると、まだ蠢動をやめないものの、なんとかリンゴの形を保っているウイルスの塊が映し出された。
「…削除してくれないのかっ!?」
「何をいう、せっかく大物を生け捕ったんだぞ!ビアンキちゃんに食わせてワクチンを作らせないでどうする!」
そうは言うが、当のビアンキは完全に、ぶよぶよ蠢く巨大リンゴに怯え切っている。ウイルスに怯えるセキュリティソフトというのもどうかとは思うが、蠢くリンゴを食わせようとする紺野さんもどうなのか。
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「さあ、食いなさい、ビアンキちゃん!」
「い…イヤですぅ…」
「イヤですぅ、じゃない!君の役
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