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故郷は青き星
第十五話
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 NASAの火星開発計画の第一段階。ベース設営任務を終えて地球への帰還の途につく宇宙船ウルスラグナ──古代イラン。ペルシャと呼ばれた頃に信仰されたゾロアスター教の英雄神。戦いの神にして火星を司る神──が、未曾有の事態に巻き込まれたのは火星を離れて僅か3日目のことだった。
 突然ウルスラグナに強い衝撃が襲い掛かり全長30mにも達する船体を激しく翻弄する。
 乗組員達は洗濯機の中でかき回されたかの様に船体内部の壁や床、そして天井に打ち付けられる。
「一体何が?」
 突如として揺れは収まったが、船内の照明は落ち、響き渡る警告音と赤い警告灯の明かりが船内を満たす。
「みんな無事か?」
 頼りになるヒゲ親父。船長のケネス・マーティンが大声で他の乗組員に声を掛けると周囲から、無事を知らせる返事が返ってくるが、医療関係搭乗運用技術者(ミッションスペシャリスト)のクリスタル・ミラー女医から「足を痛めた」と苦しそうな声が返ってきた。

 操縦手のロバート・ウィルソンは無重力の中を身軽に操縦室に入ると、パイロットシートに腰を下ろしてコンソール周りをチェックし船内の様子を確認する。
「なんてこった! メインバッテリーからの電源が供給されていない」
「……駄目だヒューストンと連絡が取れない。ロバート、船体の気密は保たれているか?」
 遅れて操縦室に入ったケネスがキャプテンシートからロバートに尋ねる。
「気密は……船内一気圧、エア漏れなし」
 ロバートの答えに、船内にはため息が漏れる。
「先ずは電源の復旧だ。トール。ウォルターすぐに作業に取り掛かってくれ」
「分かった。行こうウォルター」
「ああ、さっさと終わらせよう」
 トールと呼ばれた北村徹は宇宙航空研究開発機構(JAXA)所属であり、このプロジェクトに参加した日本人宇宙飛行士で、ウォルター・ウォーカーと共に機械関係を職分とする搭乗運用技術者である。2人は後方のメンテナンスハッチを開いて、予備バッテリーから船内の照明を復活させると電源周りのチェックを開始する。

「ちょっと待って! アレは一体なに?」
 プロジェクトスタッフ中、唯一の搭乗科学技術者(ペイロードスペシャリスト)で女性のジョイス・モーリスがサイドハッチの小窓から外を見つめながら悲鳴を上げる。
「何だというのだ!」
 彼女の声にケネスはコックピットを離れるとサイドハッチへと移動する。
「ま、窓の外に……」
 怯えた目で窓の外を指差す彼女に促されてケネスは窓を覗き込んだ。
「何だと……そ、そんな馬鹿な……」
 二の句を継げなくなり呆然として黙り込む船長に、他のスタッフ達は作業の手を休めてサイドハッチ付近に集まる。
「なっ……」
「神よ……」
「こ、これは……まいったな」
「……もう笑うしかないね」
 窓の外には
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