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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
NO.1、再び(1)
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帝国暦485年12月28日  帝都オーディン 兵站統括部第三局第一課 アデーレ・ビエラー



「はーっ」
溜息が出た。私の目の前には山積みになった書類が有る。第六次イゼルローン要塞攻防戦で消費した物資、要塞補修のための物資の要求だ。この書類を今日中に片付けなければならないと思うとウンザリする。

今年もあと少しで終わるというのに仕事は少しも減らない。多分明日にはまた同じような物資の要求書が山積みになっているだろう。それを思うとどうにも気が滅入ってしまう。私の心はどんよりとした今日の天気のようだ。明るくなる兆候など何処にもない。

こんな事じゃいけないのは分かっている。幸い兵站統括部第三局第一課長のディーケン少将は朝から軍務省へ出かけているから咎められる事は無い。彼以外にもここには士官がいるが皆私達下士官におんぶに抱っこのボンクラ士官だ。私達に注意など出来るはずもない。

それを良い事に私は眼の前の書類をただ眺めている、しかし気合いを入れて仕事に取り掛からなければいずれ書類は増え続け収拾がつかなくなるのも分かっている。分かってはいるのだが……。

私達兵站統括部第三局第一課の職員にとってはイゼルローン要塞攻防戦は悪夢だ。例え勝っても、いや勝つのが当たり前なのだがそれでも悪夢だ。皆が勝利に浮かれている時に私達だけが書類に埋もれ悲鳴を上げている。出来る事なら戦争は反乱軍の勢力内に踏み込んでやってほしい。

視線を少しずらすと写真立てに彼が映っていた。優しい笑顔でケーキを食べている。少し心が和んだ。私の心の安定剤……。彼がいなくなってからもう三年が経つ。あの時もイゼルローン要塞攻防戦の後始末で忙しい時だった……。要塞攻防戦は悪夢だ。少しも良い思い出が無い。また溜息が出た。

「どうしたの、アデーレ。溜息なんて吐いちゃって」
振り返ると私の後ろにはコルネリア先輩が立っていた。
「コルネリア先輩……、毎日が虚しくて」
コルネリア先輩に虚しさを訴えると先輩は蒼い瞳は優しく和ませた。

「困ったわね、貴女ももう軍曹になったのだから少しは立場を自覚してもらわないと。貴女の背中を見ている部下もいるのよ」
「それは分かっていますけど……」

私もコルネリア先輩も軍曹に昇進している。先輩は二年前、私は今年だった。何人かの部下も付けられ指導しなければならない立場だとは分かっている、でも……。また溜息が出た。

「あらあら、また溜息。そんな調子じゃヴァレンシュタイン准将(ぼうや)に笑われるわよ」
苦笑交じりにからかわれても私の心は全然浮き立たなかった。
「笑われても良いです。ここに居てくれるなら……」

本当にそう思う、准将がここに居てくれたらどんなに楽しいだろう。つらい仕事も喜々として片付けられるに違いない。兵站
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