壱ノ巻
青の炎
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ただ走る瑠螺蔚の背を追いながら、俺は目を細めた。
瑠螺蔚には何か考えがあるのだろう。ただ走っているだけでは相有るまい。
けれど、その真相を考えることも億劫だった。俺は、酷く疲れていた。
屋敷の外に出た途端、喉に何かが当たった。
「!」
視線だけ動かしてみれば、当たっているのは懐刀。それを持っているのは瑠螺蔚。背には屋敷の外壁が当たった。
「動かないで」
瑠螺蔚が囁くように言う。
瑠螺蔚の顔が、息がかかるほど近くにある。
「・・・・・」
背筋がぞくりとして、俺は息を詰めた。
俺をまっすぐに見る、瑠螺蔚の視線が耐えられない。
視線を巡らせば、瑠螺蔚の上気した頬と赤い唇が目に付いた。
それに何か感想を抱く暇も無く、俺は大声で笑い出しそうになった。喉に当たるこの懐刀が無かったら、もしここに俺一人であったなら、きっと俺は笑い出していただろう。気の済むまで、大声で自分を嘲り笑っていたに違いない。
俺は、何をやっているのだろうか。
たかが、女一人。首に刀を押し当てられているけれど、そんなもの、本気になればきっと振り払えるだろうに、俺は何をしているのだろう。
どうして、さっき咄嗟に気絶させようなどと思ったのか。何故殺そうとしなかったのか。一思いに殺してしまえばよかったのだ。あの時に。人は咄嗟の時には本当の心が出るというが、それならば俺の誠の心は瑠螺蔚を殺したくないと思っているのか。
「どうして義姉上達を斬ったの…。あんたの目的は何?どうしてうちに来たの」
「…」
刃が俺の喉の上を薄く滑った。痛みは感じなかった。
俺は、くちびるを吊り上げて笑った。
前田家に来て、今まで信じて疑ってこなかった何かが欠けた。瑠螺蔚に逢って、俺の足元が崩れていくのを感じた。
今ここにいる俺は現。けれどそれ以外の、今までの俺は夢幻であるような気がする。
俺がわからない。自分で自分が掴めない。
いっそのこと、死んでしまった方が楽かもしれない。
ああ、そうだな。このまま、瑠螺蔚に殺されるのもいいかもしれない。
「あんたに拒否権はないわよ」
「俺は死んでもいい」
「使い捨ての駒ってこと?黒幕が別にいるの?」
「・・・・・」
「答えなさい」
「俺を殺さないのか。俺はおまえの姉と母を殺した。俺を殺さないの
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