壱ノ巻
青の炎
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すため?それともーー・・・あたしを殺す、ため?」
思わず、伸ばした手が途中で止まる。動かない。動けない。手だけではなく、体が一寸たりとも動かない。
頭ではさっさと殺せと声が響いている。どうせ殺すつもりだったんだ、足を運ぶ手間が省けていいじゃないかと。
けれど体が動かない!どうして動かないんだ。どうして俺はさっさと瑠螺蔚を殺そうとしないのだ。なぜ!?
不意に瑠螺蔚がうつむいた。
「あのとき、あんたが傍にいてくれて嬉しかったのに」
小さく吐き出された声に、俺は虚を突かれた。
瑠螺蔚が、顔を上げる。俺をまっすぐに見た。こっちがいたたまれなくなるほどに、まっすぐ。
俺は、俺を映すその瞳に静かな炎が燻るのを確かに見た。
それは、憎しみの青の炎。
「あたしも殺すのね」
「瑠螺蔚」
からからに渇いた喉からやっと声が出た。その声は思いの外しっかりとしていたが、俺はそれよりも次に自分が言おうとしている言葉に驚いて、唾を飲み込んだ。
俺は、一体何を言おうとしている!?口を開けば弁解が出てきそうだった。何故そんなことを言おうとしているのか、自分で全く理解が出来なかった。
感情が大きくぶれていた。俺はなぜか動揺していた。
「あんたに名なんて呼ばれたくない」
「!」
瑠螺蔚が冷たく言い放った、その言葉が、その拒絶が、俺を強く射た。
震える足が、一歩、後ろに下がる。目の端で瑠螺蔚が懐刀を抜いたことには気づいたが、認識するには至らなかった。
くらりと眩暈がして、一瞬意識が飛んだ。また焦点が像を結んだときには、目の前で瑠螺蔚が懐刀を構えていた。今にも短刀を振りかざしそうだ。
女ごときに負けるとは思っていないが、このままではいろいろと面倒だ。気絶させようと咄嗟に思って、迷いを溜息と共にゆるく吐き出して、太刀を、一気に振るった。
「!」
けれど、俺が切ったのは瑠螺蔚の後ろの障子だけ。
よけた?まさか!
俺は驚きに目を見張る。
けれど俺が切ったのは紛れも無く瑠螺蔚ではなく、障子だけ。
瑠螺蔚の姿を探せば、いつの間にか瑠螺蔚は庭に下りていた。
俺は一瞬その真意を測り損ねて二の足を踏んだが、挑戦的な瑠螺蔚の視線を受けてたって、同じように庭に降りる。
瑠螺蔚はそれを確認してから、ついて来いとでも言うように走り出した。
俺もつられるように走り出す。
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