壱ノ巻
青の炎
2
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ら布を受け取った。
その笑顔は、涙に濡れていても、はっきりと美しかった。
瑠螺蔚は決して美人と謳われる類ではない。けれど、その笑顔は瑞々しく純粋で、素直に美しいと思えるものだった。
人の笑顔を、いや、人を綺麗だと思ったことなどなかった。そもそも俺は他人のことをあまりよく見ていなかった。外見など、他人を識別する目印にしか過ぎないと考えていた。
俺は自分が不愛想なことも理解しているし、村雨家では裏で動いている関係上、あんなにてらいなく俺に笑いかけるような人間もいなかった。
汚れた俺に、あの笑顔は眩しすぎた。
俺はゆっくりと目を開いた。
怯え震え立ち尽くす二人の女。
今は、こいつらを殺す。それだけを考えよう。
俺は太刀を振るった。一太刀、二太刀で、悲鳴を上げさせることもなく、女は二人とも動かなくなった。
「………」
思わず漏れた溜息に我ながら軽く驚いた。
いつも、仕事を終えたときー…人を殺したときに、こんなに重いものが付き纏っただろうか。
…駄目だ。この仕事はさっさと終わらせるに限る。
ぱたり、と刃を伝って、雫が垂れる。
赤い雫は銀の冷たい光を辿って、畳を染める。
瑠螺蔚も、あの笑顔も、そう遠くないうちにこうして血に塗れて二度と動かなくなるのだろう。それを惜しいと思うのは、ただの感傷か。
しかし俺はやらなければならないのだ。それだけが、俺が村雨家で生かされてきた意味なのだから。
その時、不意に人の気配を感じて俺は振り返った。それと同時に、背後の障子が大きく開け放たれた。
俺は、動きを止めた。障子を開けた奴も動かなかった。刀を伝う血が無ければ、まるで時が止まったかのようだった。
このまま時が、全てが止まってしまえばいい。その一瞬、俺は確かにそう願った。頭の奥のほうで鈍い音がして、眩暈がした。瑠螺蔚、と俺のくちびるが自然に動く。
こんなに、早く帰ってくるとは思わなかった。瑠螺蔚は最後のつもりだった。そもそもどうして普段は使わない離れなどに来たのか。
瑠螺蔚は、目を見開いて、俺の持っている太刀を凝視していた。おそらくは、それについている真っ赤な血を。彼女の姉と母の命を。
「発、六郎…」
瑠螺蔚が掠れる声で俺の名を呼ぶ。
それが、甘く耳に染みる。
ゆっくり、俺は瑠螺蔚に手を伸ばした。
「あんたー・・・家に来たのはこのため?義母上と義姉上を殺
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