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戦国御伽草子
壱ノ巻
青の炎

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発六郎(はつろくろう)。至急の用とは何なのですか?」



「そうですよ」



今日、主と、俊成(としなり)と、…瑠螺蔚(るらい)は天地城に出掛けていった。



渡りに船と残る女二人を離れに呼び出した。奥と俊成の妻だ。



手始めにこいつらを殺して、帰ってきた男二人を殺して、それから、…………。



いや、今は目の前のことだけに集中するべきだ。女だと侮ると痛い目にあうかもしれない。失敗という文字は、ない。失敗はすなわち死、だ。



俺は、無言ですらりと太刀を抜いた。



「は、発六郎!?何を・・・」



震える声を聞きながら、俺は目を閉じた。



瞼裏(まなうら)に、不意に瑠螺蔚の顔が(にじ)んだ。



『なんでもないから』



その女は、だから大丈夫だと、そう言った。



静かに震えながら、気丈にも涙を拭って、笑って見せた。



なんでもない?そんなわけないだろ!とふとすれば怒鳴りつけそうだった。だっておまえは泣いているじゃないか。



ただの強がり。



けれど俺に慰めてやるなんて甲斐性があるわけないし、ましてや殺そうと考えている女にそんなことをしてやれる程、優しくもない。



けれどそのまま立ち去るには、強がる瑠螺蔚の姿は痛々し過ぎた。



その涙を目にすれば苛立って、何かしてやれることはないかと考えた自分にも腹が立った。



いや、ここで疑われては今までの苦労が水の泡だ。媚びておくにこしたことはない。俺が即座に立ち去らないのは、そうだ、たったそれだけの理由に決まってる。



気がつけば俺は懐を探って、ぐしゃぐしゃの布を差し出していた。差し出してから俺は後悔した。いくらなんでも、前田の本家の姫に、こんなぼろ布を差し出すなんてどうかしている。俺はこんなものしか持ちあわせていないし、瑠螺蔚ならばこの百倍もいい布を普段から使っているだろう。



この手はもしかしたら振り払われるかもしれない。無礼者、と罵られるかもしれない。しかし、姫とはそういうものだ。気位が高く、扱いづらいものだ。そういう暮らしをしている者のことを姫と呼ぶのだ。そもそもこんな真夜中に姫の部屋に下男が入っているなど、ありえないことだ。首を落とされても仕方がない。



瑠螺蔚は驚いたように目を見開いた。



今更ながら、俺はじわりと全身に汗が滲むのを感じた。



俺は、何をやっているのか。



手を引っこめようとしたその時、瑠螺蔚は微笑んだ。



「ありがとう」



そう言って、俺の手か
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