第十四話
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シルバ6内居住区画の一角を自室として使っている。
基本的に無人で運用される大型機動要塞だが、修理・改装・メンテナンスなどを行う際には人の手を要する。可能な限り機械化による自動化が進んで入るが、直径500kmに達する巨体のために大掛かりな改装・修理の場合は10000人を超えるスタッフが要塞内に寝泊りしながら作業を行う。その為に要塞内各所には、宿泊・飲食・治療・娯楽などの施設を備える小さな町のような一画が存在し、エルシャンが利用しているのもその一つだった。
そしてエルシャンが自室代わりに使っているのは宿泊施設ではなく医療施設だった。
毎日の戦闘。しかも日に何度も出撃し、その度にパイロット強化用ナノマシーンを投与し続ける。
それは危険と判断されて計画が凍結された強化用ナノマシーンの本来の使用法からすらも逸脱した暴挙だった。
帰還の度に治療用タンクベッドに入り、強化用ナノマシーンのクリーニングと同時に医療用ナノマシーンの投与を行い可能な限り身体のケアには気を配っている。
だがダメージは蓄積し続けている。そしてその限界も遠くないところまで来ていた。
「今更止めるわけにはいかないだろ。上層部も俺も……」
XSF/A-R1は未だXナンバーが外れない実験機のまま量産が始まりエース級のパイロットへの配備が決まる。そしてパイロット強化用ナノマシーンの生産も始まった。
現在はシルバ6内にもXSF/A-R1生産ラインが作られ日産で2機ほどのペースで作られ、通信機能を強化した終えた航宙母艦へと配備が進んでいる状況だった。
そして強化用ナノマシーンは、パイロットの自己判断。つまり志願での使用という条件で生産されているが、一方で撃墜スコアに対する報酬の吊り上げという露骨な意図もうかがわせていた。
それも防衛線の度重なる後退。幾つもの星系国家の陥落が続き、方面軍本部のあるクラト星系に【敵性体】の侵攻は迫っている焦りの所産といえた。
『ですが、これ以上の神経組織への負担の増大は、同調自体すら不可能になる危険があります』
「……構わない」
エルシャンは疲れていた。肉体だけではなく精神的にも限界が近づいていた。
本来彼は、怒りや憎しみを抱き続けるのには向いていなければ好戦的な性格でもない。ただ愛する家族が居て、友人達が居て日々平和に何事も無く過ごす事が出来るのが一番幸せと感じる善良な人間だった。
決して消えようとしない怒りと憎しみの炎が彼の精神の骨格を焼き、そして焦がしていく。そんな自分の限界が分かるだけに今は戦いに耽りたかった。より大きく激しく身も心も魂も燃え上がらせたい。燃え尽きて灰となるその時を迎えるために……エルシャンの心は確実に死の淵へと誘われていた。
『方面軍はクラト星系を放棄する』
僅か3ヶ月余りの戦い
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