第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
002 秋空の回想
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俺はこの世界を生きてやる。
彼はその反則な知識を使って、生き抜いてやろうと決めたのだ。
そして、彼にはそれにも増して重大な目的が、もう一つあった。
ヤン・ウェンリーである。
彼は前世で自他ともに認めるヤンのファンであった。小説でもアニメでも、ヤンが繰り出す言動や神謀鬼策に胸をときめかせ、彼の死に心の底から落ち込み泣いたものだ。この世界に、敬愛するヤン・ウェンリーがいるとするならば、それを救うことこそが彼の使命だと考えていた。
フロル・リシャールは、自分がなぜこの世界に転生したのかは知らぬ。だが、もしそこに神の意思の類があるとするならば、ヤンの命を救うことが彼に与えられた使命だと考えていたのであろう。
「まーた、こんなとこで寝てるの? 不良士官候補生さん?」
目を開けると、いつの間か音楽は途絶えていて、音楽室の窓からはジェシカ・エドワーズが顔を出していた。窓に両手をついてこちらを見下ろしている顔は、小さじ一杯の笑みが浮かべられている。
「やぁ、ジェシカ。今日はいい天気だと思わないかい?」
フロルはもう一度目を閉じると、軽い口調でそう言った。
「そうね、素敵な秋の空。それにしたって、なんだってフロル・リシャール先輩はこんなところで寝ているのかしら? 士官学校って、そんなに時間割に余裕があるだなんて知らなかったわ」
彼女の皮肉を、フロルは口を微笑を浮かべることで応えた。
「今日の午後は戦史研究ってやつでね。爺さん先生の話はつまらんからなぁ」
「で、抜け出してきたって?」
「あとでヤンに個人授業でも頼むさ。あいつの話は面白い」
ジェシカは小さな溜息を吐いたようだった。
「そうなると可哀想なのはヤンね」
「最近、二人と会ってるか?」
「ええ、ヤンもラップも、軍人にしておくにはもったいない好男子だもの」
「すると俺は礼儀正しい紳士ってところかな」
「冗談きついわ」
「……」
一蹴されてしまった。
太陽が雲に隠れたのか、日差しが弱まるのを肌で感じた。
午前の徒手格闘訓練で殴られ、熱を持った頬が風を受けて心地よい。
「先輩、今日は随分男前ね」
「知らなかったか、実は前からだよ」
「じゃあ毎日誰かに殴られることね」
「……ジェシカって、なんか前から俺に酷くない?」
「あら気のせいよ、きっと」
「だといいけど」
言うことを躊躇ったように、ジェシカは言葉を紡ぐ。
「訓練は大変?」
「ま、軍だものなぁ」
「あなたには似合わないわ」
「ヤンほどではないね」
「いつかは戦場に?」
「それがお仕事だもの」
「怖くないの?」
「やりたいことをしないで死ぬ方が怖いさ」
「それって軍に入らなきゃできないこと?」
「そうでなければ、
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