第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
002 秋空の回想
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フロル? アンナ? レイモン?
それらの会話はすべて英語で交わされていた。
彼は当然、誰何の声を上げようとした。だがそれは発音できなかった。発声できたのは、まるで赤ん坊の声。伸ばして、ようやく視界に入った自分の手は、まるで赤子の手であった。
そして彼は気付いた。
自分は生まれ変わったのだ、と。
彼は新たな両親の元、すくすくと成長した。彼が自分の住む世界を、銀河英雄伝説の世界であると自覚したのはいつのことであろうか。おそらく、夜空にアルテミスの首飾りが輝いているのを、見つけた時だったろう。彼が生まれたのは民主主義の国、衆愚政治で滅びる運命にある国家、自由惑星同盟であった。貴族制度理不尽が横行する銀河帝国に生まれなかったのは幸い、というべきであったが、その将来を考えれば同盟もまた、安心できた物ではなかった。
彼は両親の愛情を受けて幸福な幼少期を過ごした。だが24歳分の人生経験は、彼にマせた子供という評価を与え続けた。それは致し方ないだろう。もっとも、大した問題も起こさず、多少変人奇人に思われながらも健全育っただけ、よかったというもの。
もはや、彼にとって、父レイモンも母アンナも、もう一組の両親だった。
本当に、大切な家族であった。
そんな彼がハイネセンの国立大学ではなく、士官学校に入校すると告げたとき、彼らを襲った動揺はいかほどのものだったろう。彼の両親は軍属ではなく、また戦争を嫌う平和な一市民だったからである。この件、彼は生涯申し訳ない気持ちを落ち続けたと、彼は手記に遺している。だがそれらを説得してまで、押し殺してまで、軍に進んだのは一重に彼が未来を知っていたからに他ならない。
ここは、銀河英雄伝説の世界なのだ。
相沢優一、いや、ここに至っては彼は既にフロル・リシャールという人格を形成していたとして、彼は決して軍隊や民主国家主義を崇拝していたわけではなかった。自己犠牲などという美辞麗句を、もっとも嫌う男だった。これは、ジュニア・ハイスクール時代にフェザーン人であるボリフ・コーネフと仲良くなった所以でもある。
それであっても、彼が今生きていたのは、銀英伝の世界なのである。
当時はまだ無名のヤン・ウェンリー、ラインハルト・フォン・ローエングラム??まだミューゼル姓であろうが??が勇名を届かせ、名を銀河に知らしめる、そして銀河の勢力図が一変する時代が、すぐそこに来ているのだ。
まだ、誰も時代の変革がすぐそこに迫っていることを知らない中、彼だけがそれを知っていたのだ。
彼の持つ記憶が、そのすべてがこの世界があの世界であることを告げていたのだ。
同盟軍には歴戦の勇将ビュコック提督がいて、グリーンヒル提督がいて、帝国にはミュッケンベルガー元帥が君臨していた。
??だから、
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