第二部
第一章 〜暗雲〜
九十一 〜新たなる智〜
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長沙の郡城を出立し、数日が過ぎた。
賊軍はあれ以降姿を見せず、また蔡和を奪回しようという動きもない。
無論、片時も気は抜けぬのだが。
「歳三殿。江陵郡に、劉表軍が展開している模様です」
「ほう、我らと一戦交える気か。面白い!」
「ああ、紫苑の抜けた劉表軍など、鎧袖一触だな」
疾風(徐晃)の知らせに、彩(張コウ)や愛紗らは、気炎を上げている。
「待て待て、二人とも。軽率に劉表軍と衝突があれば、それこそ申し開き出来なくなるぞ?」
「でも、悪いのは劉表の方なのだ! 星は戦いたくないのか?」
「そんな訳なかろう! 私とて武人、戦を恐れはせぬ」
「……だが、迂闊に戦端は開けぬぞ。稟、劉表軍の意図をどう見る?」
「はっ。江陵は荊州の要衝です。歳三様に交戦するつもりがなくとも、他の軍がそこに迫るのに何もしないでは、強硬派が黙っていないのかも知れません」
「うむ。風はどうだ?」
「そうですねー。この一件、お兄さんと孫堅さんに対する策略だとすれば、お兄さんの行く手を阻む事で露見するのを防ぎたいのかと」
「なるほど。どちらにも一理ある……紫苑」
「はっ」
「劉表は自ら兵を率いた事はあるのか?」
「あります。尤も荊州は戦乱と無縁でしたから、精々が賊討伐でしたが」
これだけでは、何とも言えぬか。
今少し、情報を集める必要があるな。
「疾風、劉表軍の規模と率いる将について確かめよ。星も手助けせよ」
「はっ!」
「御意!」
「風は此度の出撃の目的を探ってくれ。それから江陵郡の様子もだ」
「御意ですー」
「稟は、集めた情報の分析と、今後の戦略立て直しを頼む」
「御意」
「愛紗、鈴々、彩、紫苑は周囲の警戒を怠るな。それから、兵らに軽挙妄動を慎むよう周知徹底せよ」
「はい!」
「応なのだ!」
「承知!」
「お任せ下さい」
ひとまず、進軍は止めずに様子を見るとするか。
郡境を越えて向かってくるのであればともかく、此方が長沙にいる限り衝突は起こるまい。
その夜。
「歳三様、宜しいでしょうか?」
紫苑が、天幕に姿を見せた。
私は眺めていた地図から顔を上げ、紫苑を招き入れた。
「如何致した?」
「はい。歳三様は、司馬徽という人物をご存じでしょうか?」
司馬徽……確か、水鏡の号で呼ばれる人物だな。
朱里や愛里の師でもあるようだが。
「面識はないが、名は聞いておる」
「そうですか。実は、その水鏡先生からこのような書簡が届きまして」
そう言って、紫苑は竹簡を差し出した。
「お前宛ではないか。良いのか?」
「はい。歳三様に隠し事をするつもりはありませんから」
「そうか。では見せて貰うぞ」
紫苑が頷くのを確かめ、私は竹簡を広げた。
「…………」
簡潔に纏められた書簡だな。
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