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木の葉芽吹きて大樹為す
青葉時代・死別編
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のだ。

 こんなにもこいつは細かったのか、と既に事切れた躯を眺める。
 元より中性的な顔立ちをしていたのは知っていたし、人間の顔の美醜に興味のなかった自分でも認めざるを得ない容貌の持ち主であったのも理解していた。

 それでも己に――人々に見せる姿はいつだって誇らしげで堂々として、誰よりも毅然と胸を張っていたから、その脆さに気付かなかった。

 そっと夜風に遊ぶ絹糸の様な黒髪に手で掬い上げる。

 その生き様に焦がれて、その強さに魅せられた。
 野の獣よりも奔放な姿は、空を舞う鳥よりも自由な姿は――癪に障る事に長らく自分の憧れでもあった。

 届かないからこそ、悔しかった。追いつけないからこそ、苛立った。
 手に入らぬからこそ憎み、自分では決して真似出来なかったからこそ妬んだのだ。

「……とうとう貴様はオレだけでない、誰の手も届かぬ場所に去ってしまったな」

 不器用だ、と亡き弟からも目の前の相手からも告げられた事がある。
 今ではその通りだと認めるしかない。
 焦がれ、求めて、それなのに素直になれなかった自分が、こいつの死を看取るとはなんたる皮肉だろう。

「――だが、貴様の求める平和は所詮理想論だ。結局人間が分かり合える事などない。……オレ達が、そうであったようにな」

 目の前の相手が空を眺めつつ浮かんだ理想を追い求めるのであれば、己は地に足をつけて絶望の底に転がる世の事実を口にする。

 尾獣と並んで世界の抑止力であった目の前の人間が死んだことで、世界には密やかなる激震が走るだろう。
 ――そうしてこいつの願いとは裏腹に、再び世界は憎しみに覆われる事になる。

「オレはオレのやり方で世界を壊してみせよう。貴様とはまた違った手段で」

 手の中の黒髪がそっと離れていく。
 微笑みを浮かべたままの彼の人へと最後に一度だけ振り向いて、己はその場を後にした。



 遠くで、誰かの悲鳴が上がるのが聞こえ、静かだった里中が騒然としだす。
 一つ、また一つと夜に燈火が灯り、人々がざわめいているのを耳にしながらも――彼は静かに闇へと姿をくらませた。
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