二十話・前編
[1/16]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
歓声が辺りを包んでいる。
声は振動となり空を震わせ、そして壁を伝えその熱気をまた空へと繋げる。
熱の中心からいくつも壁を挟み離れているはずのその部屋でさえそれが感じ取れたのは、それだけその熱気が強いのだろう。
控え室の中、微かに震える大気を感じながらレイフォンは目を閉じていた。
何の問題もなく勝ち進んだ。残すところは決勝のみ。
あの相手も問題なく勝ち進んだ。どうせなら途中で負けでもすれば良かったとレイフォンは思う。そうすればわらい話にでもなったのに。大口を叩くだけはあったということだ。
数年前にも同じ様にここに来た。だがあの時とは全く違って感じられる。それは自分が変わったのか、周りが違うからか。もっとも、今となってはどうでもいいことだ。
レイフォンは静かに深呼吸を繰り返す。そして心を落ち着けていく。
するべきことは決まっている。するだけの心は決めている。描くべき絵も固まっている。
昔なら思い描けなかったその絵も今なら最後の一歩を思い描ける。それが一体何故なのかは分からないが今はどうでもいい。
今することはミスがないように何度となく心で思い描くだけ。だからこそレイフォンは心を鎮めその時間が来るまで静かに目を閉じる。
暫くして空気の震えが変わったのをレイフォンは感じ取った。出番だということだろう。
最後に一度静かに息を吐きだしレイフォンは目を開けた。
その眼に静かな■■を込めて。
広大な試合場。大勢の観客。
よく見えるようにと、試合が無粋なものに邪魔されないようにと……かどうかは知らないが遮蔽物の一つもろくにない。
そこにレイフォンは足を進め、向かいから相手が現れる。
二人が現れたことで歓声が一層上がりその振動が直接体を叩く。まるで大気自体が確かな質量を持って体を押しつぶすように厚みのある無色の膜が体を取り巻く。
それも一瞬。響く僅かの言葉と同時にそれは静まる。どちらともなく錬金鋼を復元していく。
剣と手脚甲。互いに異なる武器が向かい合う。正眼の構えに半身の構え。
そして続く電子音にも似た音が響き―――――静かに、けれど確かに熱を持って試合は開幕を告げた。
まずは簡単な力試しから。
そう言わんばかりにレイフォンはやや大振りに剣を振り上げ袈裟に振り下ろす。
技ですらない基礎の振り下ろし。けれど見るものが見れば繰り手の技量が分かるだけの力強く真っ直ぐなそれを、けれど同時に踏み込んでいたガハルドの右の正拳が迎撃する。
共に初手は流派の基礎と言える技のぶつかり合い。されど洗練された熟練の一撃同士のぶつかり合いはその余波を剄の残滓として大気をも揺らす。
レイフォンの剣は勢いを殺され刃がそれ、ガハルドの拳も伝え伝えられた衝撃に
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ