第四百二話
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第四百二話 小田切君も
ふとだ。買い物の帰りに夕暮れの公園の中でだ。小田切君は一緒に来ていたライゾウとタロに対してこんなことを言うのだった。
「実は僕もさ」
「んっ、何だよ」
「何かあったの?」
「子供の頃があってね」
ブランコに座ってあんパンを食べながら彼等に話す。尚ライゾウとタロはあんパンは食べていない。普通の食パンをそれぞれ食べている。食べながら小田切君の話を聞いているのだ。
「その頃なんだけれど」
「まあ普通の子供だったんだろうな」
「博士と違って」
「大体あの博士って二百億歳じゃない」
ビッグバンと同時に生まれたのだ。間違っても人間のスケールではない。
「あの人に子供の頃ってあったのかな」
「さあ。多分ないだろ」
「あっても僕達その頃いないし」
「そうした異常な話じゃなくて」
博士に常識は絶無だ。ならば異常と言うべきだった。
「だから。僕の子供の頃だけれど」
「この公園でブランコ楽しんでたのかよ」
「そんなの誰でもじゃないか」
「いや、あの鉄棒でさ」
無論ここは小田切君が幼い頃遊んだ公園ではない。だがその幼い頃に遊んだ公園とこの公園を重ね合わせてだ。それで話すのだった。
「ずっと遊んだんだよ」
「それで逆上がりとかしたんだな」
「そういうことかな」
「うん、したよ」
実際にそうしたというのだった。
そして昔を懐かしむ目でだ。二匹にこんなことも言った。
「できるようになった時の喜びっていったらね」
「だよな。できないことができるようになるのってな」
「どんな小さなことでもね」
二匹にもだ。それはわかることだった。
「空中で宙返りとかな」
「木に登るとかね」
「そうだよね。っていうか君達も凄いね」
「伊達に人間の言葉喋れる訳じゃないぜ」
「そういうこともできるから」
これも博士の改造の賜物だろうか。彼等は人間の言葉を喋れるだけではなかった。この辺り華奈子の使い魔になっているそれぞれの兄弟達と違っていた。
「まあ。確かに逆上がりできるようになったのってな」
「些細なことだけれど凄く嬉しかったんだね」
「あの喜びは忘れられないよ」
小田切君のその目がさらに昔を懐かしむものになる。
「子供の頃ならではだね」
「だよな。その気持ちわかるよ」
「僕達もね」
自然にだった。ライゾウもタロもその目を温かいものにさせていた。そのうえでだ。夕暮れの公園の一時を一人と二匹で過ごすのだった。
第四百二話 完
2011・7・6
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