第二百八話
[8]前話 [2]次話
第二百八話 仕方なく撤退
「どう?」
「駄目ね」
美奈子は無念そうな顔で華奈子の問いに答えていた。
「こっちもね」
「そう。こっちもよ」
見れば二人は同じ表情になっていた。先への道を見つけられないでいるのだ。
それは他の四人も同じだった。皆困惑したものさえ見せていた。
「こっちも」
「行き止まりよ」
「全然先に行けないけれど」
「どうなってんの?この研究所」
華奈子は思わず首を捻ってしまったのだった。
「何か全然先に行けなくなったけれど」
「あれじゃないかしら」
ここで美奈子は考えたうえで述べた。
「博士がその都度研究所の中身を移動させてるんじゃないかしら」
「博士が?」
「あの博士よ」
美奈子は博士のことをよくわかっている。それは六人の中でも一番であると言ってもいい。それは博士のあまりもの異常さに興味も抱いているからだ。
「研究所の中が自在に変化する位はね」
「普通だっていうのね」
「そうであっても不思議じゃないわ」
そしてこう断言するのだった。
「現によ。今ここって」
「ええ、ここね」
美奈子と華奈子は影を通して今自分達の目の前にある壁を見るのだった。
「さっきは通路だったじゃない」
「そういえばそうだったわね」
「けれど今は壁よ」
実際に壁がある。これはどう見ても壁であった。絶対に否定できない、大きな如何にも分厚そうな壁が目の前に存在しているのである。
「つまりよ。これは」
「やっぱりこの研究所の中ってあれこれと変化してるのね」
「ある程度入ったらね。だからもう」
美奈子はここで一つの決断を下すのだった。
「帰りましょう」
「撤退ってわけね」
「少なくともこれ以上先に進むのは無理よ」
美奈子は華奈子だけでなく皆に対して告げた。
「だからね。もうね」
「少ししか入っていないけれど」
美奈子は双子の相方の言葉に如何にも残念な顔になっていた。
「それでもなの」
「下手に見つかったら影でも何されるかわからないし」
美奈子はその危惧も語った。こうしたことには慎重なのだった。
「だからね。帰りましょう」
「仕方ないのね」
「また次があるから」
こう言って華奈子だけでなく皆にも言うのだった。とりあえず残念ではあるが撤退が決まった。この時はそれは仕方のないことだと思われ実行に移されようとしていたのだった。
第二百八話 完
2009・8・3
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ