第百九十二話
[8]前話 [2]次話
第百九十二話 けれど人手は
実はいつも助手を募集している博士、しかしであった。
「やはり来ぬのう」
「だから当然なんですって」
この話はループしていた。
「博士ですから」
「給料は手取り四十万で食費に部屋代も出す」
条件もまた述べる。
「しかも年三回ボーナスがあって一年で月給が一万ずつ増えていってもか」
「その前にどんな目に逢うかわかりませんからね」
これが誰も来ない理由のもう一つだった。一つは博士の助手という仕事そのものについてである。
「だからですよ」
「しかし君は生きておるぞ」
「まあそうですけれどね」
小田切君はここで己の過去を振り返る。そのうえでの結論は。
「奇跡でしたよ」
「そうなのか」
「そうですよ。南極に博士と一緒に隔離されたこともありましたし」
なおこれは終身刑であった。
「そこからカイザージョーで帰ったりしたこともありましたよね」
「楽しかったじゃろ」
「っていうかあそこでも死ぬと思いましたよ」
その時のことを話すのだった。
「本当にね」
「だから生きておるではないか」
「ですから運がよかったんですよ」
また二人の言葉は完全に食い違ってしまっていた。
「僕は。昔から運はかなりよくて」
「じゃからわしの助手になる栄誉を授かったのじゃな」
「いえ、それは悪い意味での運命でしたから」
こう返す小田切君だった。
「本当に」
「運命は引き寄せるものじゃ」
博士の言葉が急に変わってきた。
「自分でのう」
「じゃあ僕が自分で選んだっていうんですか?」
「その通りじゃ。君はわしのところに来たかったのじゃ」
とはいってもその内容自体はいつも通り強引である。
「だから来たのじゃよ」
「全然そうは思えないんですけれどね」
小田切君にとっては不運という意味の運命にしか思えなかったのである。
「それは」
「まあそれで給料じゃがな」
「はい」
「臨時ボーナスも加わって今月は手取り六十万じゃよ」
「臨時ですか」
「そうじゃ。留守番を多くしてもらったからのう」
博士はいつもあちこちに言って犠牲者を探している。その間小田切君が研究所の留守番をしていたのだ。それへの報酬だというのだ。
「だからじゃ。受け取っておいてくれ」
「はあ。わかりました」
何はともあれ報酬は多いことには満足している小田切君だった。しかしそれでも助手はずっと彼一人のようである。
第百九十二話 完
2009・5・12
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ