第百八十話
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第百八十話 今度は光を使って
三人はボートを漕ぎながら進んでいく。進むうちにやがてまた新しい場所に入ってしまった。そこは暗く夜の世界を映し出しているのがわかった。
「夜?」
「そうみたいね」
美奈子が華奈子の言葉に応えた。
「まあ泳ぐのはお昼だけじゃないってことね」
「それはわかったけれど」
しかし華奈子は辺りが暗くなってどうにもこうにも不安そうであった。それが顔にも出ている。
「ちょっと。これは」
「何か困ったの?」
「周りが見えないし」
まず言うのはこのことだった。
「それに」
「それに?」
「ぶつけたりしたらどうしようかしら」
周りが見えないことと直接関係することだった。彼女が心配することは道理であった。
「そうなったらそれこそ」
「そうよね。私が笛を吹くにしても」
「ちょっと無理があるでしょ?幾らソナーやレーダーになっても」
「ええ。ちょっとね」
美奈子自身もこのことを認める。実際にその手には笛を手に取ってはいなかった。そのうえで華奈子に対して言っているのである。
「それはね。かなりね」
「だからよ。周りが見えないから」
「ああ、大丈夫よ」
しかしここで赤音が言ってきた。
「それはね。安心して」
「安心してってまさか」
「魔法使うの?」
「その通りよ。私の魔法知ってるわよね」
楽しそうに二人に対して言う赤音だった。もうその右手を自分の顔の高さに上げている。今まさに魔法を出そうとしているかのようだった。
「だからよ。今ね」
「じゃあ御願いできる?」
華奈子がその赤音に対して言ってきた。
「灯り。魔法で」
「任せて。はいっ」
一言であった。それと共に早速その右手から光を出す。その光はすぐに光のボールとなりボートの前に来た。そうしてそこに浮かびボートの前を照らすのだった。
「これでどう?」
「あっ、いいわね」
「これなら大丈夫ね」
美奈子も華奈子もその光を見て笑う。充分過ぎる程はっきりとした光でボートの前はおろかかなりの範囲が丸見えになっていた。
「これならもうさっきまでの明るい場所と同じよ」
「前も周りも心配することないわ」
二人は笑顔で言葉を続ける。
「それじゃあ。安心してそうね」
「そうね」
「どう?私の今度の魔法」
魔法を出した当の赤音は満面の笑顔でボート漕ぎに戻っている。
「結構以上にいいでしょ」
「ええ、おかげでね」
「普通に前に進めるわ」
「善き哉善き哉」
美奈子と華奈子の返答に上機嫌で笑う赤音だった。こうして三人は暗がりを気にすることなくさらに先に進むことができるようになったのだった。
第百八十話 完
2009・3・29
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