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久遠の神話
第三話 見てしまったものその七

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 だが憧れ、羨望と逆のだ。その感情についても話した。
「けれど嫉妬はね」
「誰かを妬むのは」
「誰でもあることだけれどよくないと思うよ」
 こう樹里に話したのだ。
「それはね」
「そうよね。マイナスの感情はね」
「それはその人をよくしないから」
 だからだというのだ。
「僕も。誰かを嫉妬したりしてね」
「上城君が?」
「子供の頃そうした感情あったから」 
「そうだったの」
「それで妬んでひがんでね」
 子供の頃の経験、些細なことで誰にでもあるようなことだった。
「ほら、友達が滅多にないカードを持ってて」
「ああ、カードゲームの」
「それが欲しくて欲しくて仕方なくてね」
「妬んでたんだ」
「向こうもそれを自慢して」
 本当によくあることだった。子供の頃には。これがプラモデルだったりチョロQだったりゲームソフトだったりする。何にしろ人が持っていて自分が持っていないものを見て嫉妬する。そういうことだった。
 その時のことをだ。彼は今樹里に話すのである。
「もうね。我慢できなくなって」
「カードを盗もうとしたとか?」
「そうだったんだ。気付いたらそいつの家にこっそり忍びこもうとしていて」
「それで」
「いや、偶然だったんだ」
 さらにだ。その時のことを話していく。
「そこでそいつの家の犬が鳴いて」
「あっ、犬がなの」
「立ち止まって。自分がしようとしていることに気付いて」
 そこで良心が働いたというのだ。良心というものは急に動くこともあるのだ。
「それで慌ててそこから逃げ去ったよ」
「そんなことがあったの」
「本当に危なかったよ」
 こう樹里に話すのだった。
「危なかったよ」
「そうね。もう少しでね」
「悪いことをするところだったよ」
「上城君にもそういうことがあったのね」
「そうだったんだ」
 あえてだ。その話したくない過去を話したのだ。
「だから。妬みは」
「よくないことよね」
「よくない結果を生み出すことが多いよ」
 そうだとだ。また樹里に話した。
「気をつけないとね」
「そうよね。私も」
「けれど憧れはね」
 それはどうかというのだ。そちらの感情は。
「いいと思うよ」
「それはいいのね」
「うん。憧れる人や存在には近付きたいよね」
 上を、そして前を見ての言葉だった。
「そうだよね」
「ええ。そうした人には」
「だから。努力するから」
 それによってだ。どうなるかともいうのだ。
「いいと思うよ」
「努力して。自分が高まっていくから」
「僕もね」
「上城君も」
「そう思ってるよ」
 樹里の方を向いて話す。
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